阪神のギャンブル補強に感じる不安=思い出す中村GMの「勝ち運」の無さ

山田隆道

思い出されるは中村阪神の90〜95年

久保のFA移籍、中田賢の獲得に失敗した阪神。スタンリッジの穴を埋める投手は現れるのだろうか 【写真は共同】

 もっとも、来季の阪神にスタンリッジの穴を埋めるような新たな先発投手が次々に台頭し、さらに呉も期待通りの活躍を見せれば、すべての不安は杞憂に終わるはずだ。中村GMの仕掛けたギャンブル補強が見事に成功したということになるだろう。

 しかし、こういう一か八かのギャンブル補強については、中村GMほど“持っていない男”もそういないから厄介だ。どうしても思い出してしまうのは、中村GMがかつて阪神監督を務めていた1990〜95年。当時の中村阪神も幾度となくギャンブル補強を敢行していたが、それらのギャンブルに勝ったためしがないのである。

 最初のギャンブル補強は90年のオフだ。中村阪神は池田親興、大野久ら4人の選手を放出し、ダイエーから藤本修二、西川佳明ら5人の選手を獲得する大型トレードを敢行したが、翌年の結果は散々だった。かつて年間15勝を記録したこともある右腕・藤本修二は阪神で1勝もできず、同じくかつての2桁勝利投手・西川佳明も未勝利に終わった。その一方で、ダイエーに移籍した大野久はパ・リーグの盗塁王を獲得する活躍を見せ、池田親興もリリーフとして活躍。また、この年の阪神はロッテから超ビッグネームの内野手・高橋慶彦も獲得しているのだが、これも期待外れに終わっている。

過去のギャンブル移籍はことごとく大敗

 お次は92年のオフだ。この年の中村阪神は仲田幸司、野田浩司、湯舟敏郎、中込伸といった先発投手陣が安定し、リーグトップのチーム防御率を記録。さらに亀山努、新庄剛志といった若手野手の台頭もあり、7年ぶりのAクラス(2位)に躍進した。そこで当時の中村阪神は翌年の優勝を目指して、弱点だった打線の補強に着手すべく、今でも語り草となっている世紀のギャンブルトレードを敢行。オリックスから大物スイッチヒッター・松永浩美を獲得するかわりに右のエース格・野田浩司を放出したのだが、これまた大失敗に終わった。翌年の松永は故障により年間通して試合に出られず、一方の野田はオリックスで最多勝を獲得する大活躍。結果、翌年の阪神はせっかく安定しつつあった投手陣がまたも崩壊し、弱点だった打線は弱点を維持したまま、再びBクラスの4位に沈んだ。

 他にも、この時代の中村阪神はFAで獲得した石嶺和彦(94年入団)や山沖之彦(95年入団)といった大物選手が満足に働けなかったり、91年から4年連続3割以上を記録していた優良助っ人・オマリーを94年限りで解雇したと思ったら、翌年そのオマリーがヤクルトに移籍してシーズンMVPに輝く大活躍を見せたり、とにかく一か八かのギャンブル勝負に出るたびに、ことごとく大敗を喫した。なんという、負け運の強さだ。

ブラゼルとコンラッド…ギャンブルに負けた今季

 そもそも昨年のオフもそうだ。中村GMは福留孝介、西岡剛といったメジャー帰りの大物選手をダブル獲得し、西岡は一定の成功をおさめたものの、福留は故障により満足に働けなかった。とはいえ、それらは先述したところのプラスアルファ補強であり、ギャンブル補強という意味では、ブラゼルを解雇してコンラッドを獲得したことだろう。

 結果はご存じの通りである。今季コンラッドはまったく活躍できず、一方のブラゼルは途中入団した千葉ロッテでさすがの長打力を発揮。そこで今オフの阪神は打線の長打力不足を解消すべく、新外国人のゴメスも獲得したわけだが、そもそも長打力不足の要因のひとつは、ブラゼルとコンラッドに関するギャンブルに負けたことだ。

 そんなことを思うと、スタンリッジと呉昇桓に関するギャンブル補強にも俄然注目してしまう。これまでの負けは中村GMの“持ってなさ”によるものなのか、それとも単純な眼力不足や調査能力不足によるものなのか。いずれにせよ、中村GM本人も来季の結果には強烈なプレッシャーを感じていることだろう。

<了>

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著者プロフィール

作家。1976年大阪生まれ。早稲田大学卒業。「虎がにじんだ夕暮れ」「神童チェリー」などの小説を発表するほか、大の野球ファン(特に阪神)が高じて「阪神タイガース暗黒のダメ虎史」「プロ野球むしかえしニュース」などの野球関連本も多数上梓。現在、文学金魚で長編小説「家を看取る日」、日刊ゲンダイで野球コラム「対岸のヤジ」、東京スポーツ新聞で「悪魔の添削」を連載中。京都造形芸術大学文芸表現学科、東京Kip学伸(現代文・小論文クラス)で教鞭も執っている。

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