好調サウサンプトンでの吉田麻也の現在地=明暗を分けたプレシーズンの準備の差

寺沢薫

コンフェデ杯の出場で準備期間を確保できなかった

我慢の時期は続くが必ずチャンスはやってくる。今はモチベーションとコンディションを高く維持し、ベストな準備をするしかない 【Getty Images】

 ロブレン、フォンテ、ホーイフェルトの3人と吉田の差は、“プレシーズンの準備”だろう。前者3名はプレシーズンの合宿や6試合行われたテストマッチにフル参加しているが、6月にブラジルで行われたコンフェデレーションズカップ(コンフェデ杯)に出場した吉田は合流が遅れ、最後の2試合に短時間出場しただけだった。

 ポチェッティーノ監督は昨季途中から就任したため、今夏はチームに来て初めてのプレシーズンだった。その上、彼が志向するのは先ほど紹介したような規律と連動性が求められる組織的なスタイルだ。ロブレンが「こんなに色んなことを学べるとは思っていなかった。僕らはラインをとても高く保っているが、これまでこういうプレーはやったことがなかった。リスクはあるけれど、とてもいい仕事ができていると思う。毎日、たくさん話している。僕らの哲学は、ボールを失ったらできるだけ早く取り返すことだ」とコメントしているが、選手たちはこの夏、みっちりと彼の哲学を叩き込まれたことは想像に難くない。その大事な準備期間の多くを、吉田は逃してしまったのだ。

 同時に、コンディション調整が遅れたことも影響した。「FIFAのスケジュールは監督にとって迷惑だ。ガストン・ラミレス(ウルグアイ代表)と麻也はコンフェデ杯でプレーしたことで他の選手と同じフィットネスではない」

 これは7月末にポチェッティーノ監督が漏らした不満の声。さらに、プレミア開幕直前にも、宮城で行なわれたウルグアイとの親善試合(8月14日)のため、吉田は往復約1万キロの長旅を強いられている。

「犬みたいに走らせるから、彼を殺したくなることもあったよ。でも、それで結果が出るのだから仕方がない」とはエスパニョール時代から指揮官を知るパブロ・オズバルドの証言だが、ハイプレスが求められるポチェッティーノのチームではそれだけ運動量が求められる。高いラインを維持するCBもそれは同様で、少しでも動ける選手がピッチに立てる。そんな中、吉田がフィットネス不足でシーズンインしたことは致命傷だった。

今はチャンスに備えて準備を整えるべき

 こうして、昨季は横一線、もしくは少し優位に立っていたはずのフォンテとホーイフェルトに先を行かれ、ロブレンと「最初からいいフィーリングだった」というフォンテが先発の座をつかんだ。マンチェスター・ユナイテッドの香川真司とデビッド・モイズ監督の間にも同じジレンマがあったわけだが、他チーム以上に深い戦術理解とフィットネスレベルの高さが求められる状況にいた分、吉田の方がダメージは大きかったのかもしれない。さらに、コンフェデ杯やウルグアイ戦が、日本代表の“守備崩壊”と重なったことも不運だった。教え子である吉田とラミレスが出場したこれらのゲームは、ポチェッティーノもチェックしていたはず。失点を重ねる姿がマイナスイメージに繋がっても不思議はない。

 勝っているチームは変えるなという格言に従えば、吉田はもう少し我慢の時間が続くだろう。しかし、シーズンは長い。必ず故障者や出場停止でチャンスは回ってくる。昨季後半、ポチェッティーノが就任した後も吉田がレギュラーを守ったのはフォンテやホーイフェルトよりも状態がよかったからであり、今後もコンディションのいい選手が優先されるはず。ポジション奪取は決して不可能ではない。

 それに、一度は「構想外」とした李忠成を、9月になってからトップチームに戻した例もあり、ポチェッティーノはいわゆる“カタブツ”ではない。今はモチベーションとコンディションを高く維持し、日々の練習でポチェッティーノの哲学を身体に染み込ませてベストな準備をするしか道はない。

<了>

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著者プロフィール

1984年、東京都生まれ。『ワールドサッカーグラフィック』編集部を経て、株式会社フットメディア(http://www.footmedia.jp/)在籍時にはプレミアリーグなど海外サッカー中継を中心としたテレビ番組制作に携わりながら、ライター、編集者、翻訳者として活動。ライターとしては『Number』『フットボリスタ』『ワールドサッカーキング』などに寄稿する

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