五輪スノボ新種目、期待の17歳・角野友基 不安と自信と――手探りの中で急成長

スノーボードの五輪新種目スロープスタイル。不安と自信と、17歳角野友基が今の思いを語った 【トランスワールド・スノーボーディング・ジャパン】

 来年2月のソチ五輪で採用されるスノーボードの新種目スロープスタイル。ジャンプ台やジブと呼ばれるレールやボックスなどの障害物が組み込まれたコースで、それぞれの技、滑りの総合力を競う種目だ。この新種目における唯一の強化指定選手、17歳の新星・角野友基を直撃。トレーニングやマスコミ対応など多忙を極める中、ソチ五輪でのメダル獲得に向けた“今”を語ってくれた。

昨季は種目総合V 日々進化し続ける17歳

 「メダルは取りたいですね。でも、ただガムシャラに(メダルを)狙うのではなくて、その内容が大事。自分ができる最高の滑りを楽しんで成功させることができれば、メダルは取れると思っています。でも、4年に一度の五輪……なかなか思うようには滑れないはず。だからこそ、そのプレッシャーに打ち勝つことができれば、その先にメダルがあると信じています」

 角野友基、17歳。昨年12月に中国・北京で行われた世界最高峰のビッグエアコンテスト「エア&スタイル」での優勝を皮切りに、世界中からの視線を一気に浴びるようになり、さらには昨シーズン、FIS(国際スキー連盟)スロープスタイル種目の総合優勝に輝くなど、飛ぶ鳥を落とす勢いで急成長を続けるライダーだ。

「ジャンプに関してはほかの選手と(技術は)変わらないし、調子が良いときは上回ってると思うけど、問題はジブですね。五輪レベルで考えると、入れるアイテムもそうですし、できるトリックも限られてしまう。(バートン・)ハイ・ファイブスで勝てなかった(結果は3位)理由もジブにあると分析しています。11月中旬から(米国の)コロラドに行くので、そこでやり込むしかないですね」

 前回の当コラムで、SAJ(全日本スキー連盟)のスロープスタイル・アドバイザーである根岸学氏が語っていたように、当面の課題はやはりジブのようだ。ジャンプの仕上がりについて尋ねてみると、「普通ですね。可もなく不可もなく(笑)」とのこと。世界最高レベルといえる1260→1260のコンボやトリプルコークを身につけたうえでの発言と捉えれば、自信のほどがうかがえる。

国内トレを選択 手探りの中で冷静に見つめる今

  ハーフパイプチームは10月上旬に再びニュージーランドへ渡り、トレーニングを積んでいたのだが、当の角野はと言うと、日本でマスコミやスポンサーなどの対応に追われていた。

「日本では週1〜2くらいでトレーニングをしています。昨年取り組んでいた肉体を改造するためのハードなトレーニングではなく、現状を維持するためのものですね。ニュージー(ランド)に行くという選択肢もあったんですが、(現地での練習では)パイプでのトリックのような伸びしろがないから、しっかりしたスペックのジャンプ(ジャンプ台)が用意されていないのであれば、今は滑る必要がないという判断でした。現時点でのアイテムの大きさで考えると、(取り入れる技は)1260やトリプルコークが物理的にも限界ですから」

 言い換えれば、ジャンプでのトリックに関していえば、現時点でほぼ仕上がっているということ。さらに根岸氏も話していたが、スロープスタイルにおけるアイテムは、ジャンプ台の巨大化やジブアイテムの複雑化が著しいため、それが完璧に整っていない環境で滑ることは、練習以前にかなり大きなリスクを伴うとのことだ。
 そして、雪上にいれば滑りに集中できるわけだが、五輪という大舞台を控える少年にとって、自身の夢でもあり周囲の期待といった、大きくて重すぎるプレッシャーがのしかかってくる。

「けっこう病んでます(笑)。五輪に対するイメージがまったくないっていうか……。それに向けて、何が正解で不正解なのかが分からないから不安だらけです。五輪で勝つためには何をすればいいか、っていうハッキリしたものがないから。そういうことばかりを考えすぎちゃって。滑りに関しては何の不安もないんですけど(笑)」

相手は意識せず、まずは「理想のライディング」を

一本一本を楽しみながら空中遊泳。この気持ちを持って臨めば、メダル獲得も見えてくるはずだ 【トランスワールド・スノーボーディング・ジャパン】

 17歳という若さもしかり、新種目であることもしかり。当然ではあるが、初となる4年に一度の大舞台を前に、角野が本音を漏らした。勝つためには、カナダのマーク・マクモリスやセバスチャン・トータント、ノルウェーのトースタイン・ホーグモやステール・サンドベックなど、世界最高峰のコンテストにおいて実績を積んでいる数々の強豪ライダーを撃破しなければならない。そのことについて直球で尋ねてみると、

「相手を意識してしまうと、どうしても“勝とう勝とう”ってなってしまうじゃないですか。僕が考える大会での滑りとは、自分の思い描いたとおりにできるかできないかなので、理想のライディングができたら勝てると信じています。それができる条件が整っていたとしても、相手を意識することで勝てなくなってしまう。相手がこけたから次は抑えようとかすると、次のランで抜かされたりすると思うんです。だから、周りのことは意識しないようにしています。そんなことを、この前のニュージーで気付きました(笑)。プレッシャーとか何も感じることなく、とにかく楽しんで滑ろうと意識したことでああいう結果(ハイ・ファイブスでの3位)がついてきたので」

 なんとも頼もしい答えが返ってきた。17歳になって間もない角野は、渇いたスポンジのごとく、周囲が驚くほどのスピードで水を吸い込んでいく。昨年12月にインタビューしたときから比べても、ライディングスキル以上に内面も成長しているようだった。
 正直なところ、昨シーズンだけの結果で考えたとき、メダル獲得は厳しいのではないかと分析していた。しかし、この成長幅をじかに感じることができた今、出場ライダーの中でも群を抜いて若いからこその進化を踏まえると、思わず口元が緩んだ。ソチ五輪で初開催となるスロープスタイル種目でのメダル獲得も夢じゃない、と。

<了>

(野上大介/トランスワールド・スノーボーディング・ジャパン編集長)

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■編集長 野上大介プロフィール
1974年生まれ、千葉県松戸市出身。スノーボード専門誌「TRANSWORLD SNOWboarding JAPAN(トランスワールド・スノーボーディング・ジャパン)」編集長。大学卒業後、全日本スノーボード選手権大会ハーフパイプ部門に2度出場するなど、複数ブランドとの契約ライダーとして活動していたが、ケガを契機に引退。その後、アウトドア関連の老舗出版社を経て、現在に至る。編集長として8年目。今年開催された、アクション&アドベンチャースポーツのインターナショナル・フォト・コンペティション「Red Bull Illume Image Quest 2013」の日本代表審査員。フェイスブック(www.facebook.com/dainogami)やツイッター(@daisuke_nogami)でも情報を発信している。
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著者プロフィール

TRANSWORLD SNOWboarding JAPAN/世界最多の発行部数を誇るスノーボード専門誌の日本版として1994年に創刊し、今季で20年目のシーズンを迎える。多くのスノーボーダーが求める情報を掘り下げるべく、“「上手く」「楽しく」「カッコよく」滑るための一冊”というスローガンのもと、9〜4月まで年間8冊に渡って毎月6日に発刊。国内のスノーボード専門誌において圧倒的な読者数を抱える。また増刊として、ギアカタログ誌「SNOWboarder’s BIBLE(スノーボーダーズ・バイブル)」(7月発刊)、女性スノーボード誌「SNOWGIRL(スノーガール)」(10月発刊)、トリックハウツー誌「B SNOWBOARDING(ビー・スノーボーディング)」(11月発刊)をラインナップし、老若男女問わず、多くのスノーボード愛好家より支持されている。

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