錦織圭、1年を戦い抜いて得た地位と自信=来季こそ満を持してトップ10挑戦を

内田暁

ツアー終盤、疲労との戦いで得たもの

シーズン終盤は疲労との戦いでもあった。BNPパリバ・マスターズのツォンガ戦では試合中にマッサージを受けながら、接戦を制した 【Getty Images】

 そのような精神的な引っ掛かりは、9月中旬の国別対抗戦デビスカップで得た2つの快勝で、ひとまずは吹っ切ることができたという。だが、その後に続く楽天オープンを含むシーズン終盤戦は、肉体的な疲労との戦いだった。楽天オープン準々決勝では、腰の痛みに苦しめられ、上海マスターズやスイス・インドアも、腰や膝に不安を抱えながらの戦い。2つのマッチポイントをしのぎ、1−6、7(7)−6(4)、7(9)−6(7)の大熱戦の末に勝利したBNPパリバ・マスターズ2回戦のジョー・ウィルフリード・ツォンガ(フランス)戦にしても、錦織は試合途中でトレーナーを呼んでいる。

 それでも彼は、全ての選手が疲弊し、どこかしらに故障を抱えるシーズン終盤の4大会で、貴重な315ポイントをつかみ取った。これは現在、錦織が保持する総ポイント数の、約16.5%に相当する。ケガを抱えていたころには、無理せず休んだ方がいいのではという声もあっただろうが、結果として最後まで戦い切った実績が、本人の「体が強くなり、ケガが少なくなっている」との実感と自負につながった。

 今季の錦織は、帯同トレーナーなどのチームスタッフを一部変えた。彼らは、試合をしても悪化しないケガかどうかを慎重に見極めた上で、いけると踏んだ場合は、「単に休むだけでは抜本的な解決にならない。試合の中で動かし鍛えながら、治していく」という判断をも時に下してきた。そして実際に、深刻な事態には至らず長いシーズンを最後まで戦い抜いた。結果、ランキング20位以内の確保という実利と、自信という大きな副産物を得たのである。このことは、来季に向けた大きな足掛かりになるはずだ。

雲の上の聖域ではなくなった“トップ10”

 当面の目標となる“トップ10”について、最近の錦織は「単に一度入っただけでは意味がない。その地位に定着できる力を確立することが重要」と繰り返している。錦織に近い関係者は、ランキング上位への挑戦を登山に例え、「ベースキャンプを設定し、上にアタックしていけばいい。空気が薄いと感じれば一度下に降りて、また上を目指せばいいんです」と言っていた。その文脈になぞるなら、錦織はこの1年をかけて、トップ20にベースキャンプを築いたのである。

 頂上の空気を感じる地点に確固たる足場を固め、来年はいよいよ、さらに上を目指すアタックの機を迎える。今年1年の戦いを通じ、その頂の空気の薄さも、踏破のために必要な体力も、錦織は身をもって体験し学んできた。そんな彼にとって、トップ10は、もはや雲の上の聖域ではないはずだ。

<了>

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著者プロフィール

テニス雑誌『スマッシュ』などのメディアに執筆するフリーライター。2006年頃からグランドスラム等の主要大会の取材を始め、08年デルレイビーチ国際選手権での錦織圭ツアー初優勝にも立ち合う。近著に、錦織圭の幼少期からの足跡を綴ったノンフィクション『錦織圭 リターンゲーム』(学研プラス)や、アスリートの肉体及び精神の動きを神経科学(脳科学)の知見から解説する『勝てる脳、負ける脳 一流アスリートの脳内で起きていること』(集英社)がある。京都在住。

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