偉大なるホースマン中村和夫の夢の結実=地味血統トウケイヘイローが良血打倒だ

橋本全弘

エリート軍団をなぎ倒せ!

ゴールドヘイローを前に中村和夫氏は「どうだ、いい馬体だろう。いい種牡馬になるぞ」と笑顔で話していた 【撮影:橋本全弘】

“ブラッドスポーツ”はたまた“血が走る”などと言われる競馬の世界。今週27日の天皇賞・秋への出走予定馬たちの血統を見ても、ディープインパクトを筆頭にキングカメハメハ、ステイゴールド……など現役時代に輝かしい戦績を残した種牡馬や海外の有力種牡馬たちのいわゆる良血馬がほとんどを占める。
 そんな中にあって、父はもちろん母の父も、まるで実績のない地味な血統配合馬がこのエリートたちをなぎ倒して、古馬頂点に上り詰めようとしている。

 それが父ゴールドヘイロー、母の父ミルジョージのトウケイヘイローである。

 今回は、この2頭の名もなきサラブレッドを種牡馬にして成功させた偉大なるホースマンの話をしたい。

「血統と馬体が良ければ種牡馬として成功する」

 このミルジョージ、ゴールドヘイローの2頭の種牡馬は社台グループでもなく、また門別、静内でもない。さらに日高路を下った三石にある中村畜産でけい養されていた。そしこの2頭を種牡馬にしたのが、かつては“日高のドン”と恐れられた(?)ホースマン・中村和夫氏である。最近では“モエレ軍団”の総帥といった方が分かりやすいだろうか。高齢のため、現在は隠居の身ではあるがトウケイヘイローはまさしく彼が導いたサラブレッドと言ってもいいだろう。

 私が初めて中村氏と会ったのは8年ほど前。当時、私はフサイチ軍団・関口房朗氏の競馬顧問をしていた。関口氏がセレクトセールで2億6500万円で落札した良血馬が2勝に終わり引退。乗馬に転用する……という中で、私は「成績はないが血統がこれほどいいのだから種牡馬にはなれないものか」と相談すると、中村氏は「馬体が良ければウチ(中村畜産)で預かろう」と言ってくれた。

 その時の中村氏の種牡馬に関する含蓄が忘れられない。

「種牡馬というのは確かに競走成績がいいのにこしたことはないが、そうでなくても血統と馬体が良ければ成功する可能性は十分あるんだ。私はそう信じて何十年もやってきたんだ」

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著者プロフィール

 1954年生まれ。愛知県出身。早稲田大学教育学部英語英文学科卒業後、スポーツニッポン新聞東京本社に入社。87年、中央競馬担当記者となり、武豊騎手やオグリキャップ、トウカイテイオー、ナリタブライアンなどの活躍で競馬ブーム真っ盛りの中、最前線記者として奔走した。2004年スポニチ退社後はケンタッキーダービー優勝フサイチペガサス等で知られる馬主・関口房朗氏の競馬顧問に就任、同オーナーとともに世界中のサラブレッドセールに帯同した。その他、共同通信社記者などを経て現在は競馬評論家。また、ジャーナリスト活動の傍ら立ち上げた全日本馬事株式会社では東京馬主協会公式HP(http://www.toa.or.jp/)を制作、管理。さらに競馬コンサルタントとして馬主サポート、香港、韓国の馬主へ日本競馬の紹介など幅広く活動している。著書に「名駿オグリキャップ」(毎日新聞社)「ナリタブライアンを忘れない」(KKベストセラーズ)などがある。

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