課題残る安藤美姫、五輪への道は険しく
ジャンプ、スピン、体力…露呈した課題
フリーの演技後、肩を落としてリンクをあとにする安藤美姫 【坂本清】
FSは演技前の6分間練習から何かおかしかった。2アクセルからのコンビネーションで転倒し、そのほかのジャンプでもバランスを崩すシーンが散見された。今季のFS「火の鳥」で挑んだ演技は、その不安が的中するかのように、冒頭の3ルッツ、3ループで回転不足の判定。中盤の2アクセル+3トーループは後半が2回転となり、2トーループでも手をついてしまった。終盤のスピンは前日同様、4段階評価で最低レベルの1がつき、表現力を示す5項目の演技構成点も評価が伸びなかった。SPでは56.25点を記録したが、復帰戦となったネーベルホルン杯(ドイツ・オーベルストドルフ、9月26〜28日)より3点以上も下回っている。総合で150点を切ったのは2007年11月のNHK杯以来だ。
もっとも仕方なかった部分はあるだろう。安藤が国内で公式戦に出場するのは、10年12月の全日本選手権以来、約3年ぶり。今年4月の出産を経て、リンクに戻ってきた安藤見たさに約800人のファンが詰めかけ、地方大会では異例の有料試合となった。会場内は安藤の順番が近づくにつれ、期待と緊張が入り混じった異様な雰囲気となり、カメラのシャッター音だけが鳴り響いていた。その空気にのみ込まれた感は否めない。ネーベルホルン杯でも「緊張した」と話していたが、開催地のオーベルストドルフはドイツの片田舎。会場内はどこかのどかな雰囲気で、元世界女王に向ける観客のまなざしも日本の比ではなかったはずだ。
過熱する周囲の期待と報道もあり、安藤は大会を通じて口を開かなかった。大会終了後に書面でコメントを発表。それには「今回の演技はSPを重視して練習してきました。フリーの演技に関しては、久しぶりの国際試合の疲れを残してしまい、課題も残る2日間になりましたが、ドイツとこの試合を経て今の自分に何が足りないかが明確になったので、今後につながる良い試合になったと思います」と記してあった。
ソチ五輪代表への条件
スピンでレベル1の評価も。ジャンプ以外の部分でも課題が 【坂本清】
【1】1人目は全日本選手権優勝者。
【2】2人目は、全日本2位、3位の選手とグランプリファイナルの日本人表彰台最上位者の中から選考。
【3】3人目は、2の選考から漏れた選手と、全日本選手権終了時点でのワールド・ランキング日本人上位3名、ISU(国際スケート連盟)シーズンベストスコアの日本人上位3名の中から選考。
つまり五輪切符を得るためには全日本選手権での表彰台が最低条件。安藤にしてみれば優勝で出場を決めなければ不利になる。というのも、連盟が定める強化指定選手から外れている安藤は、グランプリシリーズはもちろんそのほかの国際大会にも出場する機会が限られるからだ。関東選手権のパフォーマンス次第では強化指定選手に復帰する可能性も浮上しているが、今回の結果を連盟がどう判断するかは分からない。
また安藤自身が語っているように、課題も多く残っている。とりわけ体力面の問題は無視できない。ネーベルホルン杯前には「1時間の練習を2日続けるだけでも体調を崩してしまう。とにかく体力がない状態」と、不安をのぞかせていたが、関東選手権でもFSでは疲れからか、ジャンプやスピンのキレが目に見えてなくなっていた。演技終了後にはぐったりした様子で、ひざに手を置く場面も見られた。試合の体力は試合でしか培えない。トップレベルでの試合数がそれほど期待できない安藤にしてみれば、これは由々しき問題だろう。ネーベルホルン杯では「火の鳥」という力強い曲に引っ張ってもらったというが、疲労を忘れるぐらいの勢いをどこまで自分のモノにできるかが、今後の鍵になってくる。
ファンが掲げる「美姫、Belive」の横断幕
一歩ずつ歩む安藤。奇跡への道となるか―― 【坂本清】
ファンの期待も後押しになる。関東選手権では2日間とも立ち見の観客が出るほどの盛況ぶり。会場内には「美姫、Belive(信じる)」といった横断幕が多く掲げられ、SPの演技後には、スタンディングオベーションも起こった。五輪への道は限りなく険しい。安藤自身も「五輪は頑張ったご褒美」と考えている。状況的には厳しい立場だが、それでも奇跡を信じているファンは数多くいることだろう。
6月の「ドリームオンアイス2013」後、安藤は五輪シーズンに向かう決意をこう語っている。
「ひとつひとつの試合をこなしていくことが、自分の義務でもあり、選手としてやるべきことだと思うので、一歩ずつやっていきたいです」
その言葉どおり、険しい道のりでもまずは一歩ずつ歩いていくしかない。次は東日本選手権が舞台。元世界女王の意地に期待しつつ、動向を見守っていきたい。
<了>
(文・大橋護良/スポーツナビ)
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