急激に上がる五輪での戦いの“ベース”=コーチら語るスノーボード日本の課題
大会への参戦だけでなく、真冬の南半球で調整もしてきた角野。回転数もさることながら、エアの高さもご覧のとおり 【トランスワールド・スノーボーディング・ジャパン】
そこで今回は、SAJ(全日本スキー連盟)のハーフパイプコーチ・治部忠重氏、スロープスタイルアドバイザー・根岸学氏のそれぞれに、日本チームの現況について分析してもらった。
五輪で戦うための絶対条件
そこで、出発前の治部氏を直撃し、現在のハーフパイプチームについて話をうかがった。
「男子に関してはルーティンで説明すると、(前回の)バンクーバー五輪の時点でメダル争いをするためには、900→900→1080→1080がベースにあった上で、ダブルコークをいかに組み込むかが勝敗を左右していました。しかし、恐らく(次の)ソチでは1080→1080→ダブルコーク1080→ダブルコーク1080にまでベースが上がり、さらに、バンクーバーでショーン・ホワイト(米国)が繰り出したダブルマック1260もそうですし、アーリーウープ・ダブルコークやダブルチャックフリップ、ユーロXゲームでイウーリ・ポドラチコフ(スイス)が決めたCABダブルコーク1440、FS1080以上、BS900以上の高回転フラットスピンなど、ルーティンも含めトリックの難度が急激に上がるでしょう。
ですので、私ども日本チームとしても、トリック単体の完成度を上げることはもちろんですが、ゴールを見据えた上で、ルーティン(連続技、技の組み立て)としてのクオリティーを高めるためのトレーニングを積んできます。プラス、高いエアですべてのヒットをつなぐ、というのが絶対条件ですね」
「ハイ・ファイブスの出走順は、青野→平岡→平野という流れでした。それぞれがハイエアはもちろん、いい意味で競い合うような雰囲気が生まれていました。結果、1本目で平岡がトップにつけていたんですが、後ろに控えているW杯を征した平野を前にしてルーティンの難度を上げ、結果的にその日のベストポイントを塗り替えて優勝に至ったわけです。W杯のときもパイプが難しいコンディションで、早めに現地入りしたもののなかなか対応することができずに選手たちはストレスを抱えていたと思いますが、大会に合わせて調子を上げていくことができたのでいいプロセスが踏めたと考えています」
ハイ・ファイブスはお世辞にもコンディションがいいとは言えない状況だったが、誰よりも高く宙を舞い優勝をもぎ取った平岡 【photo: BURTON】
また、女子に関しては、「現時点ではジャンプの高さが他国のトップ選手に比べると劣っているので、すべてのヒットにおいてハイエアで繋げるようにすることが当面の課題になるかと思います」とのこと。W杯で降旗由紀が5位に食い込んだものの、昨シーズンのビッグコンテストにおいても日本人選手は特筆すべき結果を残せていないだけに、残り4カ月近くでどこまで成長できるかに期待したい。
角野に見えた精神面での成長
でも、昨シーズンまではジャンプでのコンビネーショントリックのベースが1080→1080だったところが、キッカーの状態にもよりますが、条件が良ければ1260→1260でつなげられるレベルにまでは達しています。ハイ・ファイブスでも厳しいコンディションの中、FS1080からBSダブルコーク1260を決めましたしね。あと、一番大きかったのは精神面での成長です。テレビ局が2社取材に来ていて、大会期間中、彼に密着していたんです。そのように過度な期待をされた状態で大会に参戦したうえで、さらに結果を残すというのは簡単なことではないと思いますので、そういった意味でも大きく成長できたんじゃないでしょうか」
マスメディアに取り上げられることが多いとは言えないスノーボード競技だが、五輪という大舞台では、世界中にその映像がライブで配信される。プレッシャーを跳ね返せるだけの精神力は、否が応でも必要になってくるはずだ。さらに、現時点で唯一強化指定されている角野の、今後の課題について尋ねてみた。
「ソチのコースはすでに発表されているんですが、前半に3つのジブセクション(レール、ボックスなどの上を滑る箇所)、後半に15/18m→15/18m→18/22mというすべてが2ウェイの3連ジャンプになります。ジャンプに関しては十分通用するレベルにありますが、ポイントはジブになると思います。ジャッジングの比重に関しても、以前よりもジブに重点を置くようになってきていますから。それについては本人も考えているはずです。そして、私が考える最重要課題は、難易度の高いルーティンでのメイク率アップです」
昨年12月に中国・北京で行われたビッグエアコンテスト「エア&スタイル」のチャンピオンである角野。彼のルーツとも言える場所は日本が誇るジャンプ練習施設。そしてスロープスタイルという競技特性上、ジャンプに対する注目度が高いが、根岸氏が語るジブでのライディングについても、今後は着目していきたい。
<了>
(野上大介/トランスワールド・スノーボーディング・ジャパン編集長)
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