大分のクラブ存続と未来を見据えた強化=必然のJ2降格の先に見えたもの
クラブ存続を第一に考え低予算で戦い抜いた功罪
就任から3年間で田坂監督(写真)が残した功績は大きい。クラブ側は続投も視野に入れているようだ 【写真は共同】
前回の降格時には22億円から半分以下に減額された強化費だが、今回は来季の予算が大幅に縮小されることはなく、主力の半分以上が他チームに引き抜かれるような心配はなさそうだ。
ある意味、今季はJ2規模の予算で戦っていたとも見て取れる。残留を争っていたサガン鳥栖やヴァンフォーレ甲府、湘南ベルマーレ、ジュビロ磐田がシーズン中にこぞって補強に走ったなか、大分はロドリゴ・マンシャ、梶山陽平のピンポイントの補強にとどまり、身の丈にあった姿勢を貫いた。この判断には賛否両論あるが、「再生のため避けては通れない試練の道を歩んでいる」(青野社長)とクラブの存続を第一に考えたのは確かだ。
J2降格に伴い、フロントの責任問題が浮上するだろう。もちろん何かしらの打開策は必要であり、新しい流れを作るタイミングかもしれない。ただ、個人的には社長や強化育成部長の交代には賛成できない。「トップチームだけでなく、アカデミーなどクラブ全体で長いビジョンを描きながらチームを考えたい」と柳田強化育成部長が話すように、クラブの総合力を高め、チーム作りをするためにはトップを代えればいい、というわけではない。
その部分で言えば、今季もアカデミー出身の松原、為田が試合に出ているように、優秀な選手を数多く輩出しているアカデミーの存在は、大分にとって光明である。来季、トップ昇格を果たす選手が現時点で明らかではないが、将来的には彼ら下部組織出身者がチームの中核を担っていくことになるだろう。また、安川や為田のように他クラブのスカウトから漏れた大卒の原石を発掘し、生え抜き選手として育成することも必要だ。地方クラブの大分にとって、育成と綿密なスカウティングこそ生きる道なのだ。
サポーターに感動を提供するクラブへ
6試合を残してのJ2降格は、昨季の札幌に次ぐ不名誉な記録であるが、一方で来季に向けて最も早くスタートを切れると捉えることもできる。1勝しかできずに降格が決まる屈辱的な結果になったとはいえ、このJ1での悔しい経験を来季へとつなげることが重要だ。
クラブが何を目指しているのか明確にすることが、クラブの軸になっていくと思う。自分たちの役割は何なのか。軸があれば、それを基準に評価できる。
昨年10月に大分県民、地元の政財界の支援でJリーグに未返済だった3億円を返済し、J1昇格を果たしたクラブである。サポーターに何を提供したいのか、スタジアムに足を運んでいる人たちが何を求めているのかを考えると、それは共に戦い、感動を共有したいのだと思う。限られた戦力、限られた時間のなかで勝利を追求する姿が感動を呼ぶ。プロであるならば、選手もクラブも結果を求めなければいけない。勝つためには高い戦術眼や技術が必要になるけれど、それはあくまでも手段でしかない。人は心で動いているし、人は人でしか感動を与えられないのだから。残り試合で来季につながる戦いを示してほしい。
<了>