「バルサの選手はサッカーを知っている」=日本と欧州の差を示す言葉の意味

大塚一樹

短時間ながら有効だったハイプレッシャー

バルセロナとほかのチームの差は個人戦術。日本は今後、「出すべきところで技術が出せる選手」を育てて行く必要がある 【写真/新井賢一】

「今日はやり方を変えてきたチームがあったので非常に厳しい戦いになった」

 サンス監督がこう振り返ったのは、大会3日目にバルセロナを苦しめた東京都U−12との対戦だ。選抜チームでありながら、東京都U−12はバルセロナを向こうに回し、少しも臆することなくラインを高く保ち、前線からプレッシャーをかけ続けた。

「ハイプレッシャーに晒されてビルドアップが難しくなった」というサンス監督の言葉通り、バルセロナのパスの精度が落ち、引っかけたボールを素早くFWに展開するショートカウンターで東京都U−12は幾度となくチャンスを演出した。

 実は、その他の試合でも時間を限定した中ではこの構図が何度か見られた。とはいえ、動きの量で凌駕(りょうが)できるのも25分ハーフの前半部分だけ。試合が進むにつれて、バルセロナがペースを握り、終わってみれば大量失点での敗戦という試合がほとんど。どうしたら1試合を通してバルセロナに対抗できるのか? これが新たな課題になるのだが、やみくもに「走りきれる体力を!」というのではあまりに能がない。日本サッカーがこれまで積み重ねてきたものを生かし、正常進化を遂げるためのヒントになりそうなのが、日本の指導者がそろって口にしていた「バルセロナの選手たちはサッカーをよく知っている」という言葉だ。

出すべきところで技術が出せるバルセロナ

「私たちにとってサッカーとは、ボールを保持し、ポゼッションをしながら相手ゴールに迫っていき、ゴールを奪うゲーム。子どもたちにもボールを保持しながら攻めていくのがサッカーの楽しさだと教えています」

 こう語るのはカンテラの総責任者を務めるギジェルモ・アモール氏。12歳以下であろうと、バルセロナの選手である彼らは、その哲学をピッチ上で見事に表現していた。ボールを受ける際にはその後のプレーを予測しつつ動き出し、それを見た周囲のプレーヤーは、あるものはおとりとなるべくスピードを上げ、あるものは次のプレーのイメージを共有して動き直す。守備においても、あえて間合いをとり、パスコースを空けて味方へのパスを誘い、ボールミートの瞬間を狙ってプレッシャーをかける。

 決して動きっぱなしではないのに、相手を動かし、疲弊を誘うプレーをし続けるバルセロナから学ぶべきことがあるのは多くの指導者が感じたところだろう。アモール氏は日本選手のクイックネスを褒めたあと「でも走らなければいけないのはボールの方だ」と手厳しい。

 エキシビションマッチで大会選抜チームを率いた元日本代表DFの都並敏史氏は、「バルセロナの選手で目立った選手の何人かは、あの年齢にして“俯瞰”でピッチが見えている。さらに見えたことを体現できる技術も持っている。普通は『見えたけどできません』ということがよく起きる年代のはずだけど、彼らは“見える”し、“できる”」と「サッカーを知っている」というある種曖昧な言葉の定義を明確にしてくれた。ではどうすれば“見えた”上で、“できる”選手が生まれるのか?

「それが3人目の動きを含めて組織的に連動しているとなると、一朝一夕にはできない。ああいう『出すべきところで技術が出せる選手』を育てないと」

試合の中で3−4−3を自然にこなす12歳の選手たち

 バルセロナのサンス監督も、アモール氏もリバプールのアカデミーダイレクタ−、ロドルフォ・ボレル氏も「日本選手の技術レベルは非常に高い」「個々では欧州でも通用する」と単なる社交辞令を超えた一定の評価を与えている。だとするならば磨くべきは、技術の使い所、出し所。都並氏は急造の選抜チームに守備のポイントを伝える際に「あのチームの(セルヒオ・)ブスケツ、シャビ、(アンドレス・)イニエスタだけは抑えろ」と檄(げき)を飛ばしたそうだが、バルセロナU−12の選手たちの個人戦術が異様に洗練されているのは、明確なお手本、しかも世界最高峰のお手本が身近にあるからに他ならない。

“アスルグラナ(バロセロナのチームカラーである青とえんじ色)”に身を包んだ12歳の選手たちは、日本のフル代表の選手たちがいまだに消化しきれない4−3−3と、3−4−3のフォーメーションの使い分けを、こちらが注意して観ていないと気づかないくらいの自然さで遂行していた。しかも試合の中で、状況に応じてだ。

 ましてや彼らは昨シーズンまで、7人制でリーグ戦を戦っていたという。「重要なのはシステムの形ではなく、個人戦術とグループの動きの融合だ」と暗に示す彼らを目の当たりにしては、ザックジャパンも熟練度を言い訳にはできない。この年代での戦術理解の差が、フル代表で戦う年代になって大きな違いを生み出している可能性すらあるのだから。

 だからといって、この差が「サッカーの歴史」「サッカー文化」にあると言ってしまっては身もふたもない。世界に挑戦した子どもたちが身を持って体感した世界との差は、大きな意味での技術の差でもある。

 バルセロナU−12のサンス監督は、3日目まで大会の会場となったヴェルディグラウンドで目にしたある光景に感銘を受けたという。大会終了後、同じグラウンドで始まった東京Vの練習でスクール生たちが、ボールを落とさずリフティングしながらビブスを着ていたというのだ。サンス監督は身振り手振りでこの様子を通訳に伝えつつ、こう続けた。

「若い世代の個人技術、テクニックに関しては素晴らしいものがあります。一方で、ボールを大事につないでいく動き、たとえば個人で言うならボールを受ける位置や身体の向き、グループでは、どう動けばボールがもらえるかなどの動きに改善の余地があるように見えました」

 少なくともバルセロナではドリブルやボール扱いだけを取り出して「技術」とは捉えていない。たとえ12歳以下であっても試合の中でそれを生かせなければ、いいプレーヤーとしては認めてもらえない。

 幸い日本の選手たちはベースとなる基本技術はすでに習得している。都並氏が「寄せ集めでもみんな言えば分かる子ばかりだった」というように理解する力も、それを遂行する規律も持ち合わせている。あとはこのレベルの“世界”をできるだけ早いうちから、いかにコンスタントに経験できるか。2013年の夏が、そのスタート地点になるのかもしれない。

<了>

FCバルセロナの元コーチが教える「サッカー選手が13歳までに覚えておくこと」

知のサッカー第2巻 【イースリー】

FCバルセロナの選手や世界のトッププロをサポートしてきたスペインの世界的プロ育成集団「サッカーサービス社」が監修したU−13世代の選手向け教材「知のサッカー」。彼らが分析した「Jリーグ」の試合映像をもとに、日本の子ども達に足りない攻守の個人戦術からグループ戦術まで、選手のサッカーインテリジェンスを磨く32のプレーコンセプトを解説。オフィシャルサイトにて好評発売中だ。http://www.think-soccer.com/

2/2ページ

著者プロフィール

スポーツライター。育成年代から欧州サッカーまで幅広く取材活動を行う。またサッカーに限らず、多種多様な分野の執筆、企画、編集にも携わっており、編著に『欧州サッカー6大リーグパーフェクト監督名鑑』、全日本女子バレーボールチームの参謀・渡辺啓太アナリストの『なぜ全日本女子バレーは世界と互角に戦えるのか』を構成。

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント