敵将も舌を巻く守備力 前橋育英の初優勝

楊順行

“フラミンゴ軍団”延岡、ぴりぴりムード乗り越えて

前橋育英に敗れ、選手と涙を流す延岡学園・重本監督(中央)=甲子園 【共同】

 この大会の勝ち上がりを見ていると、へんな表現だが、BRICSという経済用語が思い出されてしょうがなかった。発展が著しいブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカの頭文字を合わせたもの。いわば、新興勢力だ。春夏連覇を狙った浦和学院、日大三は初戦で姿を消し、仙台育英も敗れ、済美、大阪桐蔭、横浜……もベスト8進出ならずと、ビッグネームが相次いで倒れていった。明徳義塾、常総学院も準々決勝で敗退し、残るは前橋の群馬県以外、どこが勝っても県として初めての決勝進出というベスト4である。

 で、決勝に進んだのは前橋育英と、ユニホームのピンク色から僕が個人的に名づけたフラミンゴ軍団・延岡学園だった。「ユニホームの色は、どこにもマネされないようにと、僕が監督になった2010年から変えました」と重本監督。ただ、あまりの斬新な色が恥ずかしく、導入当初の選手たちは、大会の開会式などでは、直前まで片隅に隠れていたという。

 6月までは、チーム崩壊寸前だった。1年夏から登板していたエース左腕・上米良有汰を故障で欠き、NHK杯という県内の大会は、地区予選で敗退して本大会出場すらかなわなかった。「チームがぴりぴりしていて、空中分解寸前でした」と主将の坂元亮伍はいう。そんななか、テスト期間中にもチームのことばかり考えていたという坂元は、ある日ふと気がついた。
「自分がぴりぴりするから、チームに伝染するんじゃないか。ふだん通りやればいいんじゃないか」

 ふだん通りとは、前橋育英と同じくチームのモットーである凡事徹底。当たり前のことを、徹底して行う。延岡学園では、私生活からゴミが落ちていたら拾うのが当たり前だ。意識しなくてもそれができれば、野球でも、いざ試合になったときやるべきことが自然にできるという考え。だから決勝の前でも、「球場入りするときにストローが落ちていたので、拾いました」と坂元は笑う。
 そういう日常だから、甲子園では、練習通りの力が出た。初戦で同じ九州の自由ヶ丘を撃破すると、3回戦は初出場の弘前学院聖愛に大勝。準々決勝では、やはり初出場の富山第一に延長サヨナラ勝ちすると、準決勝は初めて先発したエース・横瀬貴広が花巻東を完封した。決勝こそ1点届かず、宮崎県勢の初優勝はならなかったが、48年ぶりのベスト4進出から初めての決勝進出は賞賛されていい。

 さながらBRICSのように、新たな力が台頭したこの夏。優勝投手の高橋光成はじめ済美の安樂智大、明徳義塾の岸潤一郎、浦和学院の小島和哉と、2年生に好投手が多かったのも特徴だ。さて来年は、さらに新興勢力が勢いを増すのか、それとも……。

<了>

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著者プロフィール

1960年、新潟県生まれ。82年、ベースボール・マガジン社に入社し、野球、相撲、バドミントン専門誌の編集に携わる。87年からフリーとして野球、サッカー、バレーボール、バドミントンなどの原稿を執筆。高校野球の春夏の甲子園取材は、2019年夏で57回を数える。

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