“五輪翌年”の面白さ味わえた世界陸上=リオ五輪の“原石”若手選手が台頭

加藤康博

日本の若手選手には良い経験に

男子200メートルの飯塚。ロンドン五輪は予選敗退も、今大会は準決勝進出と躍進した 【Getty Images】

 日本チームの結果は「メダル1、入賞7」、期待に見合う結果を出した選手とそうでない選手がいたが、大会前の目標が「メダル1、入賞5」だったことを考えると、一定の評価はできるだろう。
 日本陸連はロンドン五輪後、新年度を待たずに強化体制を一新し、リオデジャネイロ五輪に向けて動き出してきた。もちろん結果が何より重要だが、今季、急速に台頭してきた桐生祥秀(洛南高)のような若い選手が経験を積む場としての意味合いもあった。

 また、ロンドン五輪に出場した選手も時間を空けることなく、再度、世界大会を経験でき、次の目標を手にできたことも大きい。男子200メートルの飯塚翔太(中央大)はロンドンでは予選落ちだったが、今回は準決勝へ進出。女子1万メートルの新谷仁美(ユニバーサルエンターテインメント)は決勝5位。9位だったロンドンよりも順位を上げ、タイムも自己新を出している。

 飯塚は今大会に臨むイメージと収穫をこう語った。
「予選を20秒5くらいで楽に走って1位か2位で通過、準決勝のシードレーンをもらって勝負するのが理想でした。でも、予選は(6組)3着で準決勝は(いちばん内側の)1レーン。やっぱり簡単にはいかないですね。決勝に行くには予選からの走りが大事。今回はそれ(予選から先を見据えた走りをすること)が学べました。去年の五輪はそこまで意識が回らなかったので」

 飯塚は10年の世界ジュニア200メートルの覇者だ。同世代から今回の世界選手権での優勝者が出ていることも刺激になったようで、「モチベーションになる。桐生、山縣(亮太・慶応大)だけでなく、海外では年下の選手も頑張っている。負けていられない」と奮起していた。こうした経験は世界大会に出ないことには得られない。それを早い段階で手にしたことは意味があるだろう。

未来の結果が今大会の意義を示す

 テレビでもお分かりいただけたように、種目と時間帯によっては空席の目立った大会だったことは間違いない。それでもエレーナ・イシンバエワ(ロシア)が女子棒高跳で優勝を決めた時には盛り上がりを見せたし、ボルトの登場にもスタンドは沸いた。さらに多くの有力選手が出ていたらどうなっていただろうと筆者は残念に思う。男子200メートルの決勝後、「観客数の面ではスロースタートだった」とボルトは苦笑交じりに言っていたが、後半になってからその数は少しずつ増えていった。それは地元ロシアが国別のメダル数でトップを争っていたからかもしれない。

 次の世界選手権は15年に中国・北京で行われる。リオデジャネイロ五輪の前哨戦として、頂点を目指す世界のトップ選手が多数出場するだろう。そこで今大会に台頭してきた若手選手がどんな姿を見せるか、そして日本選手がその中でどのような戦いを見せるか。選手にとってこのモスクワ世界選手権の意義は未来の結果にかかっている。

<了>

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著者プロフィール

スポーツライター。「スポーツの周辺にある物事や人」までを執筆対象としている。コピーライターとして広告作成やブランディングも手がける。著書に『消えたダービーマッチ』(コスミック出版)

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