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悔し涙の5位・新谷が次世代に伝える思い
世界陸上2013・女子1万メートル
5位入賞も悔し涙を見せた新谷。積極的な走りで若い世代に伝えたかった思いとは?
5位入賞も悔し涙を見せた新谷。積極的な走りで若い世代に伝えたかった思いとは?【Getty Images】

 陸上の世界選手権第2日は現地時間11日、ロシアのモスクワで行われ、女子1万メートル決勝では、新谷仁美(ユニバーサルエンターテインメント)が30分56秒70の自己ベストを更新し5位入賞を果たした。優勝は30分43秒35でロンドン五輪金メダリストのティルネシュ・ディババ(エチオピア)。

自己ベスト更新も、口をつくのは反省の弁

 レース後、新谷は涙を浮かべながら記者らの前に現れた。

「この世界で認められるのは、きれいごと抜きで厳しい言い方をすると、メダリストだけ。それは去年の五輪で自分が身を持って感じたことなのに、今回、分かっていなかったのかなと。この1年を通して、自分は陸上が仕事で、結果がすべてと言っている割には、なんだよっていう感じ」と悔しさをにじませた。


 しかし、見ている者にとっては胸を熱くさせる展開だった。レース序盤からトップ集団の2番手につけると、4000メートル手前で先頭に。そこから9000メートルまでは新谷がレースを作り、一人、また一人と先頭集団から遅れていった。


 最終的にはディババを含むケニア、エチオピア勢が、新谷の後にぴったり付き『ラストスパート勝負』の態勢に。

「ディババさんにとっては、本当に(自分は)カモみたいだったかもしれない。あそこまで行ったのなら、もっと行けよと……」と、ラストでペースを上げられなかった自分を悔やんだ。


 本来、新谷が想定していたタイムは1キロ3分3秒程度で走るペース。つまり、実際のタイムよりも10秒以上速い記録を考えていた。しかし、グラウンドに吹く風と、夜になって涼しくなったとはいえ27度を超える気温の中で、予想以上に体力を消耗していた。

「ラスト2000メートルから3000メートルの時点で、力の8割、9割を使っていました。練習してきた割には、力を使い果たすのが早かった。まだまだだった」と、スタミナ切れを反省した。

「中高生が夢を見てくれればいい」

 悔しさと反省点が残る中、これからさらに世界の上に行くための戦略も考えている。

「まだできてはいないけど、スピード勝負が必要。それは、ラストの切り替えの方法のこと。一気にスピードを落として、一気にスピードを上げる。ただスピードを落とすだけじゃなくて、一気に下げてピュッと(上げて)いけるようなものが必要。徐々にペースを上げるのは楽で、環境が良ければ楽にできるので」と、新しい引き出しの準備はできている。


 しかし、世界と戦うための方法を考えてはいるものの、あえて『自分が試したい』とは語らない。それは、若い世代の選手たちが、それに気付いて準備をしてほしいからだ。

「これからはそんなことが全然(簡単に)できる子たちが増えると思う。男子のようにえげつない、下げて上げるレースができれば、ラスト1周も走れるはず。私の今日の大会のペースを見て、中学生や高校生が夢を見てくれればいい。本当に私がいなくてもいいので、そういう夢を持って向き合ってくれれば。それが私の願い」


 自分に厳しく、他人に優しく、楽しく、元気よく。それが新谷の信条のように見える。「(今大会のテレビ番組でキャスターを務める)織田裕二さんやその周りにいた皆さんが、『レースの主導権を握っていたね』と言ってくれた。第三者に『主導権を握れた』と言ってもらったことがすごくうれしいです」

 『今回のレースで褒められる点は?』という質問にこう答えた新谷。それこそがメダル以上に価値を置いている宝物なのかもしれない。


<了>


(文・尾柴広紀/スポーツナビ)

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