鈴木聡美に飛躍への試練をくれた夏=萩原智子の世界水泳2013

萩原智子

1年ぶりの世界大会で決勝に進めず……

厳しい結果も、鈴木にとってはさらなる飛躍のために必要な経験となっただろう 【写真は共同】

 そんな中で迎えた今年最大のイベントである世界選手権。ロンドン五輪以来1年ぶりの世界の舞台となる。リオデジャネイロ五輪で「金メダルを目指したい」と目標を定めた彼女が、どんな泳ぎをするのか注目されていた。
 しかし……ロンドン五輪で見せた鈴木選手の力強い泳ぎは影を潜め、100メートル、200メートル平泳ぎ共に、決勝の舞台へ進むことすらできなかった。

「レース前に怖くなって泣いてしまいました。でも、スタート台の前では気持ちを切り替えて、今出せる力を振り絞りました。これが今の私の泳ぎ、実力だと思います」と大粒の涙を流した鈴木選手。
 今大会前から不安要素はあった。昨年のロンドン五輪前に比べると、練習での貯金を作ることができなかった。水泳選手はオフシーズンとなる11月〜2月に徹底的な泳ぎ込みを行い、持久力に自信をつける。しかし鈴木選手は、五輪後の忙しさのため、大事な泳ぎ込みの期間、思ったような練習をすることができなかった。そのため、世界選手権ではレース後半の粘りが必要となる場面での泳ぎに精彩を欠く結果となった。国内レースではごまかせても、国際レースではごまかすことはできない。「私は天才ではありません。私は泳いで泳いで、とにかく練習して、体も泳ぎも作り上げるタイプなんです。泳いだ分だけ自信につながりますから」と話してくれたこともある。

 今大会、ロンドン五輪前までとは、違った状況になっていたのは間違いない。五輪メダリストとして挑むことで、他国の選手からマークされ、追われる立場となった。彼女自身、背負っているものの大きさに気づいた大会となっただろう。

足りなかった“絶対的な自信”

 3年後のリオ五輪に向けて、スタートの今年。思うようなレースができず、悔しい思いをした鈴木選手だが、不調の原因は、泳ぎのフォームが乱れたのでもないし、重大な故障をしているわけでもない。レース前に不安や恐怖を感じたのも、心が弱くなったからではない。冬場の練習から得られる絶対的な自信が足りなかっただけなのだ。彼女がサボっていた訳ではなく、水泳界発展のための活動や競技人生を支えて下さった方々へのあいさつなのだから仕方のないことだし、逆にそのように常に感謝の気持ちを忘れない人間性も、鈴木選手の魅力のひとつと言える。

 3年後を考えると、この厳しい経験が今年で良かった。鈴木選手は、これまで悔しい経験をするたびに、大きく強く成長してきた。今後、彼女が大きく飛躍するために必要な夏となったに違いない。良いことも悪いことも、決して無駄な経験ではない。全ての経験が今後の原動力となる。

「No rain, No rainbow」――涙の後には、輝く笑顔が見える。絶対的な自信を手にして、スタート台へ上がるとき、また最高の「聡美スマイル」を見せてくれるはずだ。

<了>

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著者プロフィール

2000年シドニー五輪200メートル背泳ぎ4位入賞。「ハギトモ」の愛称で親しまれ、現在でも4×100メートルフリーリレー、100メートル個人メドレー短水路の日本記録を保持しているオールラウンドスイマー。現在は、山梨学院カレッジスポーツセンター研究員を務めるかたわら、水泳解説や水泳指導のため、全国を駆け回る日々を続けている

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