韓国のW杯出場が「むなしい理由」=内容が悪くても意味をなさない批判

吉崎エイジーニョ

意味をなさない批判

最終予選を最後に契約が切れるチェ・ガンヒ監督(中央)。批判をしたところで、指揮官が代わってしまうのであれば、意味をなさない 【写真:Yonhap/アフロ】

 翌日のメディアは「イライラする韓国サッカー ほろ苦いブラジル行き」(『京郷新聞』)、「最後まで見つからなかったリーダー。(パク・)チソン&(イ・)ヨンピョが懐かしい」(『FOOTBALLISTA』)などと書きたてた。また、怒ったファンからのアクセス過多により試合後、大韓サッカー協会のサーバーがダウンした。
 
 韓国のW杯出場が「むなしい」のには理由がある。いくら試合内容が悪くとも、批判があまり意味をなさないことだ。2011年12月に就任したチェ・ガンヒ監督は、最初から契約期間がこのW杯予選までと決定していた。前監督のチョ・グァンレが電撃解任された後、近年のKリーグでもっとも結果を残した監督として就任の要請を受けたためだ。予選の途中からは、6月が終われば指揮を執っていた全北現代モータースに復帰することを公言。監督が代わることが分かっているから、この先を案じての批判は意味がない。監督が代わればチームは変わるのだから。チェ・ガンヒに強く意見するのも無意味だ。契約期間は最初からそう決まっており、たとえ6月の3戦でわずか2ゴール(うち1点はオウンゴール)だろうが、チェはミッションを果たしたのだ。

韓国サッカーに存在する法則

 イラク戦前後から、一部メディアは「次期代表監督の第一候補はホン・ミョンボ」と報じるが、この先はどうなっていくだろうか。韓国サッカーにはある「法則」のようなものがある。「予選での結果が悪いほうが、W杯本大会の結果が良い」というものだ。32年ぶりのW杯出場を果たした1986年のメキシコ大会ではブルガリアと引き分け、イタリアに善戦する健闘を見せた。90年のイタリア大会はアジアをぶっちぎりで通過しながら、本大会では3戦全敗。94年の米国大会は最終予選で日本に敗れるという苦汁をなめながらも、グループリーグ最終節でドイツを追い詰めた。98年のフランス大会は最終予選で日本をアウエーで下すなど余裕を持って本大会に臨んだが、監督がグループリーグの2戦目終了後に更迭され、1分け2敗で敗退した。
 
 日本が本格参戦する02年以降は、両国を比較するとよりこの傾向が色濃く出る。
 
02年W杯日韓大会
日本:前年のコンフェデレーションズカップで準優勝し、W杯でベスト16に進出した。
韓国:01年末までフース・ヒディンク監督解任説があったが、W杯ではベスト4の成績を残した。
 
06年W杯ドイツ大会
日本:世界最速で予選突破を決めるも、W杯で1勝もできず敗退。
韓国:4年の間に度重なる監督交代劇に見舞われ、W杯グループリーグ敗退も、最終戦まで予選突破の可能性があった。
 
 これらは単なるジンクスだろうか? 準備期間ではいくら成績が良くとも、それが本大会の成績に反映されていない。むしろ、本大会直前にチームの完成度がぐっと高まり本番を迎えた方が、より結果が良くなるという、はっきりとした傾向ではないか。予選は通過しさえすればミッション達成。本大会までのチームの「鮮度」を見ていくこと。これが、この先の両国の発展した姿なのではないか?
 
 そう考えると前回大会の結果は、新しい傾向を示唆しているようで興味深い。
 
10年W杯南アフリカ大会
日本:W杯直前で守備的なスタイルに転換し、ベスト16に。
韓国:本大会前に27戦連続無敗記録を達成するなど、順調な出来。本大会でもベスト16に進出する。
 
 日本は大会直前にスタイルを変えるなど最後までバタバタしていたが、韓国は大会前から好調を維持し、W杯でも好成績を残すなど、これまでとは逆の現象が起きた。果たしてブラジルW杯ではどうなるか。両国ともに本大会でライバルが上をいく姿を見たくはないだろう。大会までの状況をしっかりと比較しながら見ていきたい。日本の現状をより知るために、「ちらっと頭の片隅に韓国の情報を入れておくこと」もまた、とても有益なことだ。

<了>

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著者プロフィール

1974年生まれ、北九州市出身。大阪外国語大学(現大阪大学外国語学部)朝鮮語科卒。『Number』で7年、「週刊サッカーマガジン」で12年間連載歴あり。97年に韓国、05年にドイツ在住。日韓欧の比較で見える「日本とは何ぞや?」を描く。近著にサッカー海外組エピソード満載の「メッシと滅私」(集英社新書)、翻訳書に「パク・チソン自伝 名もなき挑戦: 世界最高峰にたどり着けた理由」(SHOPRO)、「ホン・ミョンボ」、(実業之日本社)などがある。ほか教育関連書、北朝鮮関連翻訳本なども。本名は吉崎英治。

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