無名の2人がつかんだアメリカンドリーム=NBAファイナル、スパーズ優勢の理由

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歓喜の満ちたサンアントニオ

グリーン(左)は、NBAファイナル第3戦終了時で、レブロン(右)をもしのぐ56得点の活躍を見せている 【Getty Images】

「今日は、お客さんも街の人も、みんなニコニコしていると思わない? きっと勝ったからよね」
「そう、思うわ。みんな、『GOOD GAME, GOOD GAME』って、それがあいさつのようになっているから」

 泊まっているサンアントニオのホテルの近くにあるカフェへ行くと、女性店員らの雑談が耳に入ってきた。

 確かに、どこか緊張感から解放されたような、穏やかで、笑顔の多い朝だった。カフェの並びのイタリアンレストランは早くもランチの準備を始めていたが、表に出した看板には、「GO SPURS GO!」の文字が大きく書き添えられていた。
 第3戦に勝利した夜は、まるでNBAファイナルで優勝したかのように、若い人たちが街中で大騒ぎしていた。
 車のクラクションが鳴り響き、目抜き通りは大渋滞。車に箱乗りして、スパーズの旗を振り回す。彼らがあげる奇声は深夜になってもなかなか収まらなかった。

 下馬評では、マイアミ・ヒートが圧倒的に有利。例えば、米スポーツ有線局「ESPN」の解説者と記者18人の予想では、14人がヒートの勝利を予想している。それに反してスパーズがここまでシリーズをリード。第3戦では、113対77――36点差で圧勝。サンアントニオの街は依然として狂気乱舞している。

日の当たらないキャリアを送った2人

 そのスパーズの勝利をけん引しているのは、無名とも言える選手2人なのだから、驚きである。
 おそらく、ヒートのレブロン・ジェームズ、ドウェイン・ウェイド、クリス・ボッシュ。一方のスパーズは、ティム・ダンカン、マヌ・ジノビリ、トニー・パーカーと、それほどバスケットファンでなくとも知っている名前だ。

 ぞれぞれビッグ3と称され、ヒートのビッグ3は、昨年初タイトルを獲得。スパーズのビッグ3はすでに、2003年、05年、07年と3度の優勝をそろって飾っている。

 では、スパーズのダニー・グリーン、ゲイリー・ニールと言ったらどうだろう?

 きっと、バスケットファンならともかく、アメリカの一般的なスポーツファンにとっても、「どこかで聞いたことがある」程度の名前ではないか。

 しかし、このファイナルでは、そんな無名に近い選手たちの名が新聞の見出しをにぎわせているのである。

 第3戦で、ファイナル記録にあと1本と迫る7本のスリーポイントシュートを決めたグリーンはこれまで、日の当たらないキャリアを送ってきた。
 09年に全体の46番目でクリーブランド・キャバリアーズにドラフト指名されたが、2年目の開幕前に解雇され、シーズンが始まってからスパーズに拾われたものの、6日後には再びクビになっている。同じ年の3月、彼はまたスパーズと契約したが、すぐにNBAの下部組織にあたるデベロップメントリーグに送られた。
 昨季、長いロックアウトが開けてから頭角を現したものの、それまでは、どこにでもいるような平凡な選手だったのである。

 そして、第3戦で6本のスリーポイントシュートを決めたニールは、グリーン以上に回り道をしてきた。
 07年に大学を卒業するも、ドラフト指名されず、働き場所を海外に求めた。トルコ、スペイン、イタリアと渡り歩き、10年夏、将来のNBA入りを目指す選手にとっては登竜門的な意味合いを持つサマーリーグでようやく認められるとスパーズとの契約が決まった。そこに辿り着くまでに実に3年を要したのである。

「夢がかなったようだ」

 レギュラーシーズンで2人は、パーカーとジノビリの陰に隠れた存在だったが、第3戦では2人合わせて51点をマーク。これは、ヒートのビッグ3が挙げた43点を上回る数字だ。グリーンはこのファイナルを通じて両チームトップの56点を記録しているが、これはレブロンの50点をも上回っている。
 これならもう、「誰?」とは言われないに違いない。

 ただ、主役のビック3らが活躍していないため、NBAファイナルへの注目が下がっていることは事実である。 
 ファイナルを中継しているABCテレビの2試合の平均視聴率は8.7パーセントで、昨年と一昨年の10.1パーセントと9.2パーセントと比較しても下回っていることになる。

 それでも、彼らのここまでのパフォーマンスが色あせることはない。これまで海外でじっとチャンスを伺っていたニールは言った。

「夢がかなったようだ」

 そして、その先にあるさらに大きな夢まで、あと2勝と迫っている。

<了>
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