久光製薬の3冠が告げる黄金時代の幕開け=バレー界に快挙をもたらした2つの理由

田中夕子

選手たちに自信を与え続けた中田監督の言葉

中田監督(中央)の言葉が現実になっていくことで、選手たちには自信が植えつけられた 【坂本清】

 2つ目の理由は、結果を残したことで自信がもたらされたこと。
 中田監督が就任し、最初に伝えられた言葉は選手たちに強烈な印象を残したと、キャプテンの古藤千鶴は言う。

「今年は絶対優勝します。勝てば、必ずこのチームは強くなるし、どんどん、どんどん変わっていくから」

 どんな試合でも妥協を許さず、貪欲に勝ちを求める。良いものは良い、ダメなものはダメ。1本のトス、1本のスパイクに至るまで監督は「なぜそうしたのか」と理由を求めた。

 特に同じセッターである古藤に対しては、より厳しく結果を求めてきた。
 試合に敗れた後や、思うような試合運びができなかった時はセッターの責任。「スパイカー陣の力を発揮させてあげられなかった」と落ち込む古藤に対し、中田監督は悪かったことを指摘するだけでなく、「自分の経験を信じなさい」と叱咤(しった)した。

「今までも力のあるチームだったけれど、自信がなかった。でも今季は、迷いが生まれそうな時に、久美さんの言葉を信じて、とにかくついて行こうと。自分自身にとっても、大きな支えになりました」

 ここがダメだった、あそこがダメだった。試合を重ねるたび、反省や課題は増える。でもそこで立ち止まるのではなく、「じゃあこうしてみたら?」と与えられたヒントをもとに、考え、実践することで結果もついてきたと古藤は言う。

「リーグ優勝できたことだけで、自覚と責任感を培った。久美さんの言葉が、どんどん現実になっていくから、みんなが、この人についていけばいいんだと思えた。去年から今年にかけて、リーグが終わってから黒鷲旗と試合をするごとにチームが変わっていく実感がありました」
 
 女子チームとして初の3冠タイトル獲得という快挙を、周囲はたたえる。だがその結果に満足している選手は誰もいない、とリベロの座安琴希は言う。

「優勝からがこのチームのスタート。目標は、日本で勝つことではなく、世界で戦う選手になること。そのためには、国内の試合は全部勝たなきゃダメだし、勝ち続けたい。ここから、黄金時代を築いていきたいです」
 ひとつずつ、これまでも目標を達成してきたように、これからも、またひとつずつ進化を続ける。一体どこまで続くのか。長い楽しみになりそうだ。

<了>

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著者プロフィール

神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、『月刊トレーニングジャーナル』編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。著書に『高校バレーは頭脳が9割』(日本文化出版)。共著に『海と、がれきと、ボールと、絆』(講談社)、『青春サプリ』(ポプラ社)。『SAORI』(日本文化出版)、『夢を泳ぐ』(徳間書店)、『絆があれば何度でもやり直せる』(カンゼン)など女子アスリートの著書や、前橋育英高校硬式野球部の荒井直樹監督が記した『当たり前の積み重ねが本物になる』『凡事徹底 前橋育英高校野球部で教え続けていること』(カンゼン)などで構成を担当

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