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久光製薬の3冠が告げる黄金時代の幕開け
バレー界に快挙をもたらした2つの理由

『勝ちたい』から『負けられない』への変化

6年ぶり3度目の優勝を果たし、喜びを爆発させる久光製薬の選手たち。史上初の女子3冠を達成した
6年ぶり3度目の優勝を果たし、喜びを爆発させる久光製薬の選手たち。史上初の女子3冠を達成した【坂本清】

 バレーボールの黒鷲旗全日本男女選抜大会(黒鷲旗)の女子決勝は、久光製薬スプリングスがNECレッドロケッツを下し、6年ぶり3度目の優勝を果たした。


 V・プレミアリーグ、皇后杯の優勝と合わせて圧倒的な強さで、あっさりと、女子史上初となる、黒鷲旗の3冠を獲得した久光製薬。

 V・プレミアリーグのセミファイナルからの過密日程で、コンディションは万全と呼ぶには程遠い状態だったが、勝者となったチームは、格段の成長を遂げていた。


 中田久美監督はこう言う。


「今までは『勝ちたい』と思って戦っていた。それが、一番大きな目標だったリーグ優勝を達成したことで『負けられない』に変わりました」


 決勝で対戦したNECの杉山祥子は、その強さを「今までもディフェンスがしっかりした良いチームだったけれど、セミファイナルから“固い”から“手堅い”になった。崩れるスキが、全くなくなった」と称した。

 まさに女王と呼ぶにふさわしい勝ちっぷり。その強さを形成する、2つの理由がある。

“勝ちパターン”の軸として躍動した新鍋

チームのエースとして大きな進化を遂げた新鍋(右)。“勝ちパターン”の軸の役割を担った
チームのエースとして大きな進化を遂げた新鍋(右)。“勝ちパターン”の軸の役割を担った【坂本清】

 まず1つ目は、リーグを制したことで“勝ちパターン”が築かれ、それをチーム全員が共有していることだ。


 対戦相手やマッチアップ、各ローテーションでどこにサーブを打ち、どんな攻撃を想定し、守り、そこから攻撃につなげるか。細かい戦術はもちろんだが、その戦術を果たすためにおのおのが何をすべきか。就任直後から「全員が戦力」と言い続けてきた中田監督は、それぞれに、明確な役割を与え、それを果たすことを求めた。


 たとえば、新鍋理沙に対してはサーブレシーブの要になることに加え、セッターが前衛時に新鍋も前衛に入るため、サーブで狙われた状況からの攻撃力も求めた。

 長岡望悠、石井優希といった新戦力も台頭したが、2人とも“大砲”というタイプではなく、どちらかと言えばコースを狙うコントロールやスピードで勝負するアタッカーだ。

 とはいえ、レシーブが乱れ、セッターが万全な状態でトスを上げられない場合や、セッターがレシーブし、ほかの選手からの2段トスを上げる場面では、誰かがそこで攻撃をする軸にならなければならない。


 その“軸”としての働きも、中田監督は新鍋に求めた。


「要求していることはものすごく多いですよ。周りを気遣いながら自分の役割もこなす。大変なことは間違いないけれど、それができなければ、これからにつながらない。チームにとってだけでなく、彼女自身がもう1段上に行くためには、絶対に必要なことです」


 打ちやすいトスばかりとは限らず、おまけに目の前には2枚、3枚のブロッカーがいる。そこで失点せずに、どう打てば得点できるのか。試行錯誤を繰り返し、ようやくヒントが見えたのは、リーグ戦のレギュラーラウンド終盤になってからだった。


「ネットから離れたトスだったら、思い切り助走して、思い切り打ったら、ブロックに当たっても真下には落ちない。今まではそういう状況になったら“かわそう”とばかり考えていたけど、久美さんから『苦しい時にリサが踏ん張れば勝てる』と言われて。自分にできるのかと不安もあったけど、とにかく思い切りとそれだけを心がけて打つようになったら、うまくタッチを取ったり、ブロックアウトが取れるようになりました」

 これまでは守備のイメージが強かった新鍋だが、ひと回りもふた回りもたくましさを増したエースとして、大きな進化を遂げたのは間違いない。

田中夕子
神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、『月刊トレーニングジャーナル』編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。共著に『海と、がれきと、ボールと、絆』(講談社)。『SAORI』(日本文化出版)、『夢を泳ぐ』(徳間書店)、『絆があれば何度でもやり直せる』(カンゼン)など、女子アスリートの著書や、前橋育英高校野球部・荒井直樹監督の『当たり前の積み重ねが本物になる』では構成を担当