“カタカナ名前”が日本代表で躍動する時代=アンダー世代の国際化がもたらす可能性

川端暁彦

外国で生まれ育ち日本代表を目指すケースも

熊谷アンドリューらは自分のルーツのことをさほど気にしていない様子。下の世代から価値観の変化が確実に起きている 【写真:Image SA/アフロ】

 国籍制度は一般に“血統主義”と“出生地主義”に大別される。前者は「誰(どこ国籍)の子か」を重視する制度(あるいは文化)であり、後者は「どこ(の国)で生まれたか」を重視する制度である。日本が採用しているのは前者で、平たく言えば「日本人の子は日本人」という考え方である。逆に米国などが採用するのは後者で、こちらは「米国で生まれれば米国人」という考え方だ。

 それに基づいて「日本人」として「日本代表」になる選手も出てきた。前述のリストでU−16日本代表に選ばれているサイ・ゴダードがそうだ。トッテナムのアカデミーに所属し、英国生まれの英国育ちである彼は、母親が日本国籍を持っているものの、日本語を話すことはできない。だが、それでも彼は紛れもない「日本人」であり、日の丸をつける資格がある。ついでに言うと、プレーも日本人のそれだった。敏捷(びんしょう)で技術が高く、視野も広い。両足を器用に使いながら地上戦で勝負する小さな2列目のアタッカーである。「日本生まれで日本育ちの選手です」と言われれば、そのまま信じてしまうようなプレースタイルである。

「日本に住む外国人が増えた」と冒頭に言ったものの、現実に起こっているのはその逆もしかり。つまり「外国に住む日本人」も増えているわけで、「外国人との間に子をもうける日本人」も増えるだろうし、異国の地で子を育てるケースは今後も増えていく。
 となれば、そこに「タレント」がいる可能性も増えていくわけだ。U−18ロシア代表に選ばれている篠塚一平(スパルタク・モスクワ)が一部で話題になっているが、認識されていないだけで、ほかにも「日本人のタレント」はいるのではないだろうか。血統主義を採用する日本では、外国育ちでも国籍は保持されており、代表の資格はある。

 そう遠くない将来において、日本サッカー協会が10番目の地域トレセンとして「欧州トレセン」を創設したとしても、それほど大きな違和感はないだろう。

下の世代から変化する国際化への価値観

 取材する側としては自然と気をつかう事柄なのだが、選手たちの感覚はもう少し上をいきつつあるように思う。昨年のU−19日本代表だった熊谷アンドリュー(横浜F・マリノス)に、そのルーツ(スリランカ)について聞いたときは結構緊張した覚えがあるのだが、「全然気にしないでくださいよ」と一笑に付されてしまったのを思い出す。

 今年3月に行われたモンテギュー国際ユース大会に参加した前出のサイ・ゴダードも、大人の心配を杞憂(きゆう)に変えてあっさりチームに馴染(なじ)んでしまったというし、日本社会の考え方、価値観が下の世代から変化しているようにも感じるからだ。

 これからJリーグにも(そして、ほかのスポーツでも)こうした異国の血を引く選手は増えていくだろうし、より「当たり前」になっていくだろう。かつてこんな記事が載っていたこと自体が笑い話になり、「外国人選手特有のリーチの長さに苦しみ〜」とか「黒人選手の身体能力が〜」といったお決まりの記事が過去の遺物になる日も来るかもしれない。そのとき、頂点である日本代表にもポジティブな化学変化が起きていれば――。
 道はいろいろだが、日本社会の縮図である日本サッカーの新しい可能性の一つが、彼らであることは間違いない。

<了>

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著者プロフィール

1979年8月7日生まれ。大分県中津市出身。フリーライターとして取材活動を始め、2004年10月に創刊したサッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』の創刊事業に参画。創刊後は同紙の記者、編集者として活動し、2010年からは3年にわたって編集長を務めた。2013年8月からフリーランスとしての活動を再開。古巣の『エル・ゴラッソ』をはじめ、『スポーツナビ』『サッカーキング』『フットボリスタ』『サッカークリニック』『GOAL』など各種媒体にライターとして寄稿するほか、フリーの編集者としての活動も行っている。近著に『2050年W杯 日本代表優勝プラン』(ソル・メディア)がある

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