小野伸二とWSW、おとぎ話は終わらない=敗戦を糧に感じる来季への手応え

タカ植松

赤と黒に染まるスタジアム

攻撃の要としてチームをけん引した小野。快進撃を続けるチームと2冠を目指したが、達成はできなかった 【Getty Images】

 前日に崩れかけた天候が持ち直し、これ以上は望めないくらいの快晴に恵まれた21日のシドニー。 42,102人の大観衆をのみこんだアリアンツ・スタジアムのスタンドは、今季のフィナーレであるグランドファイナルの独特の雰囲気に包まれていた。レギュラーシーズンの上位6チームが変則的なトーナメントを戦う今季のファイナルシリーズで、番狂わせは起きず順当に小野伸二が所属するウェスタン・シドニー・ワンダラーズ(以下WSW)と、そのWSWにわずかに及ばなかったセントラルコースト・マリナーズ(以下CCM)のレギュラーシーズン上位2チームでの対戦となった。

 この日、スタンドを埋めた観衆のほぼ7割以上を占めたのは、今やオーストラリアのサッカーシーンで“熱狂的サポーター”の地位を確立した、赤と黒に身を包んだWSWサポーターだった。彼らは、愛するクラブがファイナル王者の証しであるチャンピオンリングを掲げる瞬間を目撃せんと、シドニー都市圏を東西に横切り、ライバルであるシドニーFCのホームスタジアムに大挙して押し寄せた。レギュラーシーズン優勝に続く2冠達成で今季がハッピーエンドで終わることを信じてやまない彼らは、試合前からひとときも休むことなく、チャントを歌い、気勢を上げ続けた。

2冠へのゴールが遠かったWSW

 2冠達成をもくろむWSW、この試合にグランドファイナル“4度目の正直”を期すCCM。Jリーグのサンフレッチェ広島で共にプレーし、プライベートでも親しい間柄にあるWSWのトニー・ポポヴィッチと、CCMのグラハム・アーノルド両監督の顔合わせとなった対戦は、予想に違わず、両チームの意地がぶつかり合う激しいものとなった。

 前半は、CCMがやや有利に進んだ、両チームとも決め手に欠きスコアレスのまま折り返すかと思われた前半43分、CCMの攻撃の要、ニュージーランド代表のMFマイケル・マクグリンチーがCKから上げた絶好のボールを、チームの精神的支柱のDFパトリック・ズワンズワイクが渾身のヘッドでゴールにたたき込んだ。かつて大分トリニータでもプレーし、さらには小野のオランダ時代も良く知る38歳の大ベテランだ。

 後半に入り、小野からの展開でいくつかのチャンスが生まれるも、得点に結びつかないWSWは、後半21分にスーパーサブのFWラビノット・ハリチを投入。何とか反撃のきっかけを見いだそうと試みる。しかし、その交代直後にDFジェローム・ポレンツが自陣ペナルティーエリア内で痛恨のハンドを犯しPKを献上してしまう。それを、今季得点王のFWダニエル・マクブリーンが冷静に流し込み、CCMが突き放す。後がないWSWは、シーズン中には見られなかったDFの枚数を1枚減らすスクランブル体制で果敢に得点を取りにいくが、CCMがうまくいなし、試合はそのまま終了。2−0で勝利を収めたCCMの選手やスタッフは、4度目の正直で成就させた悲願に喜びを爆発させた。

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著者プロフィール

1974年福岡県生まれ。豪州ブリスベン在住。中高はボールをうまく足でコントロールできないなら手でというだけの理由でハンドボール部に所属。浪人で上京、草創期のJリーグや代表戦に足しげく通う。一所に落ち着けない20代を駆け抜け、30歳目前にして03年に豪州に渡る。豪州最大の邦字紙・日豪プレスで勤務、サッカー関連記事を担当。07年からはフリーランスとして活動する。日豪プレス連載の「日豪サッカー新時代」は、豪州サッカー愛好者にマニアックな支持を集め、好評を博している

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