石川遼を苦しめたマスターズの重圧

上がり3ホールの重要性

2日目、上がり3ホールで入れごろのパットを外すなど「予選通過」のプレッシャーに苦しんだ石川遼
2日目、上がり3ホールで入れごろのパットを外すなど「予選通過」のプレッシャーに苦しんだ石川遼【写真は共同】

 今回のマスターズを取材していてつくづく思うことは、上がり3ホールをどう攻めるのかが勝敗を分ける大きな分岐点になるということだった。アマチュア界に君臨した故・中部銀次郎氏は「すべてのストロークは等価である」と明言している。確かに初日の1番ホールで奪ったバーディも、最終日の18番ホールで叩いたボギーもトータルスコアとなるのだから、確かに等価だ。だから一打、一打の積み重ねが大切だと中部氏は言いたかったのだろう。しかし、メジャーの優勝争いという極限の中で迎える終盤のショットは、やはり重みがまったく違い、等価とは言えないというのが、今年のマスターズを見ていての実感だ。


 マスターズの最終日、最終ホール(465ヤード、パー4)でアダム・スコットがねじ込んだ7メートルのバーディパット。アンヘル・カブレラがピタリとピンの間近につけたセカンドショット。プレーオフに残るためには、もちろん、それまでのスコアの積み重ねがあればこそではある。しかし、終盤では、土壇場での精神力と、それに応える技量が絶対に必要になる。


 15番(530ヤード、パー5)で、結果的に優勝スコアとなる9アンダーにまでスコア伸ばしたジェイソン・デイは、スコットやカブレラのようなプレーが上がり3ホールで見せることができず16番(170ヤード、パー3)と17番(440ヤード、パー4)でボギーを打ってしまった。そこまではスコアを伸ばせていたのだから、技量の問題ではなく、デイ自身も「少なからずプレッシャーに襲われた」と認めているように、やはり優勝争いという重圧に飲み込まれてしまったからだ。

入れごろのパットをミス…薄氷の予選通過

 では、石川遼はどうだったのだろうか。石川は最終日に68をマークしている。このスコアは、最終日のスコットの69、カブレラの70を凌ぐ数字だ。技量としては、マスターズで十分戦えることを証明してみせた数字でもある。ただし、それは、8オーバーという優勝争いにはまったく届かない位置からのスタートから叩き出した数字である。


 初日の石川のスコアは1アンダーの71で23位タイ。優勝したスコットのそれは69の3アンダーで10位タイだが、カブレラは石川と同じ71。ところが2日目と3日目で大きな開きになってしまう。予選カットが行われる第2ラウンドを比較してみると、石川は77を叩き4オーバーとして通過ぎりぎりの55位タイへ沈んだのに対して、スコットは72と踏み止まりトップのデイと3打差の7位タイ。カブレラは69で4位タイと首位に3打差として好位置で決勝に進んだ。


 とりわけカブレラはこの日、4番(240ヤード、パー3)、5番(455ヤード、パー4)と連続ボギーを叩き1オーバーと崩れかけながらも、13番(510ヤード、パー5)から4連続バーディ、さらに18番もバーディとして一気に4位タイへ浮上するチャージ見せた。一方、石川は、ノーバーディ、5ボギー。ティショットを曲げる場面もあったが、それよりも入れごろのパットをミスする場面が目立つラウンドであった。マスターズはこれまでの予選通過44位タイを、今年から50位タイまでと改めたが、首位から10ストローク以内を予選通過とする従来のルールは変えなかったため、石川は辛うじて決勝に進めたのだ。


 この日、50位タイに入るために必要なスコアは通算3オーバー。石川は15番パー5をボギーとして通算2オーバーに後退。さらに17番、18番も連続ボギーで通算4オーバーになってしまった。もし、トップを行くデイが17番、18番のどちらかでバーディを奪っていたら、石川の決勝ラウンド進出はなかったことになる。上がり3ホールで耐えることができていたなら、薄氷を踏むような予選通過にならずに済んだラウンドであった。

「通過」という重圧が招いた終盤の崩れ

 石川は「予選を通過するためにここに来たのではない。出るからには優勝を目指す」とかねがね言ってはいたが、やはり、「通過」という壁がプレッシャーになって、終盤の崩れを招いたように見えた。17番は1メートル、18番は2メートルのパーセービングパットを外していることからも、その重圧が窺えた。


「アグレッシブなプレーを見せたい」(石川)と臨んだ3日目も、8番(570ヤード、パー5)でイーグルとしたものの、2バーディ、8ボギーの乱調で、56位タイと順位を落とした。ようやくイメージに近いラウンドができたのが最終日であった。今季、週ごとにワールドランキングの順位を落とす苦戦が続く石川にとって、「ここで通用するショットが打てれば、どこに行っても通用する」と自信を回復する68でもあった。77を叩いた3日目も68をマークした最終日も、石川は「技術的には何も変えていない」と言う。だとすれば、もちろんプレーの噛み合せもあっただろうが、やはり気持ちの問題のほうが大きいはずだ。マスターズでの68を気持ちの糧にして、これからの試合を戦ってくれるだろう。

久保田千春

1948年東京生まれ。長らく週刊ゴルフダイジェストでトーナメント担当として世界4メジャーを始め国内外の男子ツアーを取材。91年から今も続く週刊ゴルフダイジェストの連載「ノンフィクションファイル」を立ち上げ担当して編集作業を行う傍ら自らも執筆。フリーとなった今も同連載に寄稿している。2007年にアマチュアだった石川遼のツアー優勝以後、石川勝美氏の依頼により「バーディは気持ち」の編集作業を担当し、その過程で石川家と親しく交流するようになった。それが縁となり武蔵野千のペンネームで週刊ゴルフダイジェスト連載の「遼くん日記」の原作を08年から12年まで執筆。現在は同誌で「迷ったとき、ユハラにかえれ!」を執筆中。91年に当時のツアーオブジャパンの依頼で日本ゴルフ雑誌記者協会を創立し、ゴルフダイジェストを退職した08年まで同協会会長を務める。また、ここ20年ほど世界ゴルフ殿堂に委嘱されインターナショナル部門の選考も行っている。

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