黄金世代のライバル、萩野と瀬戸の素敵な関係=ハギトモコラム

萩原智子

萩野の存在が瀬戸を成長させることに

萩野(左)と瀬戸はジュニア時代に出会い、切磋琢磨してきた。世界を見据える2人が日本水泳界の新時代をリードする 【写真は共同】

 萩野選手は小、中、高校時代と、新記録を樹立し続けてきた水泳界の「エリート選手」。水泳の場合、ジュニア時代に好記録を樹立した選手は、その後、記録が伸び悩んでしまう傾向がある。萩野選手本人も「日本学童記録を出している人は五輪に行けないジンクスがある」と語ったこともある。好記録を樹立すると、周りから注目され、特別扱いを受けることもある。思春期も重なり、「自分は特別!」と勘違いしてしまう選手も、これまで何人も見てきた。自分を見失ってしまった選手は、結果がついてこないと周りのせいにし、自身が向き合わなければならない苦しいことから逃げてしまう。夢や目標を失った選手は当然、伸び悩み、選手としての道を自ら断ってしまう選手も存在する。

 ジュニア選手は記録の伸びに対して、心技体の「心」の部分、精神的な成長が追いついていない場合がある。しかし、萩野選手はジュニアからこれまで順調に記録を伸ばし、ロンドン五輪では400メートル個人メドレーで銅メダルを獲得する快挙を達成。そして今大会でも世界へ向かって、タイムを更新し続けている。

 瀬戸選手は、同年代の萩野選手の存在が、自分自身を成長させてくれたと言う。小学生のころから、新記録を樹立し続けてきた萩野選手に対し、瀬戸選手は中学生から頭角を現してきた選手だ。萩野選手の背中を追いかけるように伸び、切磋琢磨(せっさたくま)できるライバルへと成長した。瀬戸選手は当時を振り返り、萩野選手の才能、センス、努力を認め、「素直な心」と「謙虚な姿勢」を持った萩野選手を尊敬している。

 萩野選手の強さの秘密を瀬戸選手は「すべてにおいて尊敬できる存在」という言葉で表してくれた。いい記録を樹立しても、おごることなく進んできた萩野選手の存在。将来を左右するジュニア時代に、こうした素晴らしいライバルと巡り合えるのも大きな原動力となる。どうしたら日本のトップ、世界のトップになれるのか。誰もが一度は悩む問題だ。その答えを体現するライバルが日本に、しかも身近に存在することは、瀬戸選手にとってとても大切なポイントとなった。

日本水泳界をリードする2人、世界を見据えて

 そもそも、ライバルとは何か。日本語で好敵手と訳され、「実力に過不足のない、ちょうどよい競争相手」のことを指す。時々、ライバルと聞いて陰湿な嫌がらせをし、足を引っ張るケースも耳にするが、これはライバルの意味を履き違えている。本来、ライバルはマイナスではなく、プラスの存在だ。お互いを認め合い、たたえ合い、尊敬し合える関係こそが、真のライバルなのだ。今回の記録更新で萩野選手が、一歩も二歩もリードしたと言える。しかし、レース後に「大也(瀬戸)に負けないように練習してきた。これからも大也と2人で頑張っていきたい」と話した。お互いを高め合える存在。彼らから教えられることは多い。

 昨年のロンドン五輪国内選考会、400メートル個人メドレーでの持ちタイムは瀬戸選手の方が上だった。しかし五輪切符を勝ち取ったのは萩野選手だった。瀬戸選手は大会前に体調を崩し、万全の状態で臨むことができなかった。大会後はなかなか気持ちの整理ができず、ぼんやりと過ごしていたそうだ。そんな中、同年代の萩野選手が五輪の夢舞台で銅メダルを獲得した。瀬戸選手の心の中を想像すると複雑だった。しかし、瀬戸選手は萩野選手の大活躍を素直にたたえ、祝福した。

 もしかしたら、逆の立場になっていたかもしれない。それでもライバルの活躍を素直な心で認められたことで、瀬戸選手は精神的な部分で一歩も二歩も前に進むことができた。そこがターニングポイントになったと私は思う。相手の素晴らしさを認めるということは、自身の弱さと向き合うこと。弱さと向き合うことは、決して悪いことではない。現状を見極め、何が足りないのかを分析し、課題を持って、次へ臨むことができるのだ。

 昨秋の短水路世界選手権での金メダル獲得を手はじめに、短水路アジア新記録、複数種目で次々に新記録を更新。瀬戸選手の活躍に触発されるように、萩野選手も複数種目で記録を更新している。

 初日のレースで世界選手権派遣標準記録を突破し、内定したのはこの2人のみ。ゴールデンエージの彼らが、しっかり日本水泳界をリードする形となっている。今大会は始まったばかり。彼らが台風の目になることは間違いない。残りの種目でも、日本を飛び越え、世界を見据えてレースを展開するだろう。2人が「和製フェルプス」になり得るのではないかと、今から楽しみで仕方ない。

 今後もゴールデンエージの躍進は続いていくだろう。3年後のリオデジャネイロ五輪を見据えて、彼らの歩みは止まらない。最高のライバルとともに……。

<了>

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著者プロフィール

2000年シドニー五輪200メートル背泳ぎ4位入賞。「ハギトモ」の愛称で親しまれ、現在でも4×100メートルフリーリレー、100メートル個人メドレー短水路の日本記録を保持しているオールラウンドスイマー。現在は、山梨学院カレッジスポーツセンター研究員を務めるかたわら、水泳解説や水泳指導のため、全国を駆け回る日々を続けている

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