ネイマールがバルサと結んだ密約の裏側=現実味を帯びる今夏での移籍

大野美夏

交渉の主導権を奪われたサントス

ネイマールは4月6日のボリビア戦で2得点を記録したが、2013年に入りリーグ、代表ともに調子を落としている 【写真:AP/アフロ】

 ネイマール本人に代わって契約等の管理を全て行っている父・ネイマール(同じ名前)は、昨年末から言葉の端々に「バルセロナは息子にとって理想のチームだ。息子は14年から欧州でプレーしたいと言っている」とバルセロナとのつながりを示唆してきた。

 ネイマール側とバルセロナは非常にうまくいっており、サントスはすっかり主導権を奪われてしまった。何とか、契約を16年までに延長したいとオファーを出したが、父ネイマールは興味を示していない。「延長は来年考えたい」と聞く耳を持たない。それに、父ネイマールはサントス対して欧州の他クラブと交渉は断るよう依頼している。バルセロナ以外とは交渉する必要もなくなったということだ。

 要するに、ネイマールとバルセロナはこのまま契約が終了するのを待っても、金銭的に損害を受けることはないが、サントスとDIS社は、契約終了の半年前である13年1月までに契約を延長するか、契約期間内にネイマールにバルセロナへ移籍してもらわないと投資のリターンが得られなくなる可能性が高まっている。

 DIS社はノーリターンのリスクを考慮して、もしも、そうなった場合、サントスに対して慰謝料を求めることにした。金額は1000万レアル(約5億円)。サントスとDIS社は他の選手の移籍ビジネスでもめて、互いに相手を訴えていることもあり関係は気まずい。

 バルセロナとしては、ネイマールの気持ち次第で、次の移籍マーケットで来て欲しいと思っている。サンドロ・ロセール会長から大きな信頼を得ている副会長のジョゼップ・マリア・バルトメウは「ティト・ビラノバ監督始めスタッフがネイマールを次の移籍マーケットで欲しいと言っている」と言う。

 2月27日のコパ・デル・レイでレアル・マドリーに1−3で負けたバルセロナは、次のシーズンにすぐネイマールが欲しいところなのだ。

 契約延長が難しい今、サントスは次のマーケット期間中にネイマールを手放すのが良策となりそうだ。今年の6月のコンフェデレーションズカップ終了後に移籍するのなら、サントスとの契約中なので、違約金が発生することになる。契約上では、6500万ユーロと設定されているが、この通りにはならない。今や、交渉の主導権を握っているのはネイマールに続いてバルセロナだ。サントスは損しない程度の金額にまで下げてでも、移籍をしてもらうしかない。

 ネイマールとしても、育ててもらったサントスへの恩返しとして契約期間中に移籍するのもありだ。

ネイマールを取り巻く不協和音

 これまで何度もサントスへの愛を口にしてきたネイマールだが、1月から始まったブラジルの新シーズン(州リーグから始まり、6月から全国リーグ)での調子は良くない。6試合連続(サントスで4試合、代表で2試合)で無得点に終わった時には、観客席から大きなブーイングを受け、不満げにピッチを後にした(その後4月6日のブラジル対ボリビア戦で2点マークしている)。

 レポーターとけんか腰になったり、サポーターの冷たい仕打ちに対して「今までサントスのためにやってきたのは何だったんだ」と失望の言葉も飛び出した。

 ファウルをたくさん受けるものの審判がネイマールに不利な裁定をすることや、相手チームの選手との不和などピッチの中で不満が出始めている。さらに、先日ペレが「髪の毛や見掛けのことばかりに気をとらわれすぎてサッカーをすることを忘れている。代表で言えば、ネイマールは普通の選手に過ぎないのに、過大な期待がかかりすぎている」など批判を言った。これに対してネイマール本人は何も答えなかったのだが、代理人のヴァギネール・リベイロがかみ付いた。「現代なら、ペレもただの選手に過ぎなくネイマールよりも格下だっただろう。大体、私生活は褒められたもんじゃないペレにネイマールのことを言ってもらいたくない」と、こんな不協和音が流れるようになってしまった。

 技術的なことを言えば、今のサントスはネイマールの本領が発揮できるチームではなく、相棒探しを1年以上やってもまだ結果が出てこない。ネイマールがいるかいないかで、戦況が大きく変わるようなチームだ。こうなると「サントスにいて幸せだよ」と言い続けたネイマールも、早々にバルセロナに移籍することを考えるようになってもおかしくない。それに、6月のコンフェデレーションズカップで、欧州でプレーするチームメートと話をすることで、考えが変わるかもしれない。

 まずは、次の移籍マーケットでこのドラマがどうなるか。世界中のファンは、一刻も早くメッシとネイマールのコンビが見たいことだろう。多分、ネイマール本人も……。

<了>

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著者プロフィール

ブラジル・サンパウロ在住。サッカー専門誌やスポーツ総合誌などで執筆、翻訳に携わり、スポーツ新聞の通信員も務める。ブラジルのサッカー情報を日本に届けるべく、精力的に取材活動を行っている。特に最近は選手育成に注目している。忘れられない思い出は、2002年W杯でのブラジル優勝の瞬間と1999年リベルタドーレス杯決勝戦、ゴール横でパルメイラスの優勝の瞬間に立ち会ったこと。著書に「彼らのルーツ、 ブラジル・アルゼンチンのサッカー選手の少年時代」(実業之日本社/藤坂ガルシア千鶴氏との共著)がある。

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