田坂と阿部、独2部で戦う2人の現在=降格危機のボーフムと躍進するアーレン
初ゴールを決めた阿部と復帰した田坂
降格の危機に瀕するチーム状況だが、田坂(左)の経験に対する監督の信頼は厚い 【Bongarts/Getty Images】
「アベ、アベ、アベ!」。3月中旬、アーレンのホームスタジアムであるショルツ・アレーナで、アーレンのファンは叫び続けていた。3月17日に行われたザントハウゼン戦で、試合終了間際に2−2とする同点弾をマークし、25歳の若者はヒーローとなった。この結果で降格の危機から一時遠のき、阿部はドイツでのプロ初ゴールをかみ締めることができた。
一方、その360キロ北西のボーフムでは現在、喜びの気配はみじんもない。それは田坂にとっても同様である。伝統あるVfLボーフムは今、2部からの降格の危機に瀕している。カルステン・ナイツェル監督とスポーツディレクター(SD)のイェンス・トッドは、ある選手に懸けている。長い負傷離脱から戻り、チームに大きな推進力を与え、「われわれにとっていかに価値があるかを示してくれた」日本人選手に。だが、「タサ」(田坂のチームでのニックネーム)の復帰をもってしても、まだ状況に変化はない。
監督の信頼も厚い田坂の経験
現実は随分と違ったものとなっているようだ。クラブは現在、18チーム中で15位に沈んでいる。降格圏の16位まで、わずか勝ち点2差しかない状況だ。「僕らは順位以上のプレーをしているのに」と田坂は困惑し、「このチームにいる選手を見たならば、僕らが順位表の底辺にいるなんて、まったく信じられません」と話す。
だが、ボーフムが降格することなどないと、田坂は信じている。かつて川崎フロンターレでプレーした27歳は、「僕らは残留争いに勝ち抜けるだけの力を、チームとして備えています」と話した。
あらゆる選手が状況の深刻さを理解しており、順位は現実として厳しく眼前に立ちはだかる。なぜボーフムがこのような状況に陥ったのか、田坂も説明することはできない。最大の問題は、選手個々が自信を失ったことにある。常にピッチ上でミスする可能性が頭から離れず、それに苦しむ選手がいるのだ。
田坂は自身の経験を生かして、特に若手を助けようとしている。「選手は自分のことを信じなければいけないし、ピッチ上での行動が成功したなら、精神的に強くならなければいけないんです」。
自身が1番の好例だろう。競り合いに強く、左サイドで何マイルも走り抜く。ボールを要求し、自信にあふれて信じられないテンポでプレーする姿を、ナイツェル監督は称賛する。指揮官は「だからこそ、彼は稼げるんだ」と頼りにし、田坂もナイツェル監督からの信頼に感謝する。ただし、監督には驚かされることもあるようだ。
「試合前には爆発するし、試合中や試合後にもそういうことはあります。練習中やハーフタイムでも、とても感情的になったり、衝動的になったりします。こういう経験は、僕にとってとても大事なものです。日本では、そういうことはまったく目にすることはありませんから」
小野伸二、チョン・テセ、乾貴士に続いてボーフムのユニホームを着た田坂は、そう話してほほ笑んだ。降格を免れれば、さらに長くこのユニホームを着続けることだろう。