2年ぶり世界舞台、帰ってきたキム・ヨナの「今」

辛仁夏

ソチでの引退を明言し、満を持して復帰した五輪女王

2011年の世界選手権で2位に入って以来、2年ぶりのビッグイベント出場となるキム・ヨナ 【Getty Images】

 2010年バンクーバー五輪で金メダルを獲得した後、キム・ヨナは競技生活からいったん離れ、自らが主催するアイスショーを年に2度開催するなど競い合いのない中でスケートに取り組んできた。五輪金メダリストの称号を得たことで世界のトップスケーターの仲間入りを果たし、自分の名前が冠につくアイスショーにも豪華なメンバーを呼ぶことができ、ホスト役として毎回新しいショーナンバーを披露するなど、演技に磨きをかけてきたことは言うまでもない。この3年は、このまま現役引退してプロ転向か、はたまた現役続行かで、巷間の関心を引き付けていたが、なかなか決心がつかないまま3年が過ぎたと言えるだろう。そして、ついに昨年7月に競技会復帰を宣言。このときの会見で語られたのは、来年2月のソチ五輪を目指し、ソチを最後に現役を引退するというものだった。

 「最初に復帰を決めて練習をやり始めたときは気持ちが吹っ切れた感じだったが、心配も出てきた。この2年間はきちんと滑りこんでいなかったし、大きな大会にも出場していなかったから。ただ、それ以上に一生懸命に練習をしてきたし、今回の世界選手権前の大会でも悪くない演技ができているので自信を持ってできると思います」

 2年ぶりとなる今回の世界選手権で、ソチ五輪に向けて本格的にスタートを切る。再び、日本のエース浅田真央(中京大)との対決に注目が集まるが、本人は周囲の期待をプレッシャーにしないように気楽に臨むことを心がけていると話す一方で、「この復帰を決めるときに自分自身に対してどんな結果を期待するというよりも、むしろ負担をかけずに気楽な気持ちで選手生活をしようと心に決めた。それでも、私も人間なので『良くやりたい』とか『勝ちたい』という欲求が出てきました」と複雑な心の内を吐露していた。

脱力感に襲われるも「自信のあることだから、もう一度やってみよう」

 バンクーバー五輪で夢を最高の形で実現させたキム・ヨナが、五輪後に脱力感に襲われたことは想像に難くない。本人もこう振り返っている。
 「五輪の後は、私だけでなくすべての選手が空虚感を感じたと思う。長い間、目標にしてきたことが達成されたことで脱力感を味わった。金メダルを獲った私は、運動するのも嫌になってしまい、なぜ私はこれをしなければいけないのかと思うようになった。スケートを続けるという目標や理由を探すことがつらくなってしまい、心理的に迷ったかもしれない。1シーズン完全に休んだことで未来に向けていろいろ考えてみたら、これまで長い間やってきたスケートだし、自分が一番良くできることで自信のあることだから、またもう一度やってみようと思うようになった」

 制約のある競技会に出場するためには、試合用の練習を始める必要がある。夏ごろから戦う体力を取り戻すための本格的な強化トレーニングを始め、10月には小学生時代にジャンプを習った申恵淑コーチに指導を受けることになった。そして、復帰初戦となった12月のドイツ大会(NRW杯)でいきなり優勝。試合感覚や体力面で不安を見せたが、高得点をもらえる得意のトリプルルッツ+トリプルトゥループの連続ジャンプは健在で、流れのある美しいジャンプなど技術的な衰えはまったく皆無だった。今年1月の韓国選手権も制覇して、晴れてカナダで開催される世界選手権の韓国代表に選出された。
 シニアデビューした2006年に練習拠点をカナダに移して、ブライアン・オーサーコーチに師事。大きな成長を遂げた3シーズンを経てカナダ開催のバンクーバー五輪で悲願を達成したキム・ヨナにとって、カナダは第2の故郷とも言える場所だ。その地から復帰の第一歩を踏むことになった。

現地練習ではブランクを感じさせない仕上がりを見せる

 現地時間11日から大会会場での公式練習に入り、3日目となる13日のサブリンクでの練習を見た。シャープで美しい連続ジャンプを跳んで見せたのをはじめ、ジャンプもスピンも高いレベルを守っており、スケーティングスピードも増している感じで身体のキレも良く、好調さをうかがわせた。勝負の世界で戦える身体は作ってきたようだ。

 12日の練習後の囲み取材では「悪くないコンディションだと思う。競技ではどんなコンディションになるかで結果も内容も良くも悪くもなるので、試合の日に良いコンディションでできるようにしっかりと調整していきたいです」と話していた。

 あとは、どこまで気持ちの面でモチベーションを高めてプログラムを演じられるのかにかかってくるだろう。どんな思いを持って本番リンクに立つのか。14日のショートプログラム(SP)の演技から何が伝わってくるのか、楽しみなところだ。

<了>
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著者プロフィール

 東京生まれの横浜育ち。1991年大学卒業後、東京新聞運動部に所属。スポーツ記者として取材活動を始める。テニス、フィギュアスケート、サッカーなどのオリンピック種目からニュースポーツまで幅広く取材。大学時代は初心者ながら体育会テニス部でプレー。2000年秋から1年間、韓国に語学留学。帰国後、フリーランス記者として活動の場を開拓中も、営業力がいまひとつ? 韓国語を使う仕事も始めようと思案の今日この頃。各競技の世界選手権、アジア大会など海外にも足を運ぶ。

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