サッカー王国ブラジルに響く球音=WBC初出場の陰にある日本人の力

大野美夏

課題は環境整備

WBC出場を決めるもブラジル国内でのメディアの扱いは低い 【MLB Photos via Getty Images】

 MLBは世界進出(グローバル化戦略)によるマーケットの拡大を目指して、世界各地でエリートキャンプを開催している。そして、ブラジルでも数回に渡って、近隣諸国の選手を交えたキャンプが行われるなど可能性は確かに広がっている。アカデミー育ちのルイス・エンリケ・ペーゴ・ゴハラが昨年、弱冠16歳でシアトル・マリナーズと6年契約を交わしたことはその証拠の一つではないか。

 身長195センチのルイス・ゴハラは、150キロの直球を投げ、その力は本物なのだろう。ルイス・ゴハラに見られるように高い身体能力を持つブラジル人が本気で野球をやれば、その可能性は計り知れない。才能がある子供たちに海外挑戦のチャンスが広がれば、もっと夢を持って野球を始める子供も増えることだろう。

 とはいえ「サッカーに対抗するか?」と問われれば、まだまだ厳しい。なにしろ競技人口が3000万人で800のプロクラブと1万3000のアマクラブを有するサッカーに対し、野球は競技人口は千分の一の3万人、クラブ数もアマクラブの数が120ほどと全く歯が立たない。野球は用具にお金がかかる上に、ルールが複雑で、それなりの場所も必要と、サッカーよりも環境面での整備が必要なことが多いのも問題になりがちだ。さらに、野球が五輪競技から外れたことで、国からの援助はなくなってしまっている。

メディアの扱いもさみしいもの

 野球に興味のある人が限られているため、当然今回のWBCに対するメディアの扱いもさみしいもので、国内有数の日刊紙である『エスタード・デ・サンパウロ』紙のスポーツ部に所属するジャーナリストにWBC本戦がいつ始まるのか、ブラジルの初戦の相手はどこか尋ねてみた。残念ながら、彼はどちらの質問にも答えることができなかった。「本戦出場を決めた時は、新聞でも結構大きく扱ったんだけどね……」と残念そうに言っていたが、ブラジル国内のメディアには、そのくらいの関心しかない。

 新聞の紙面は、現在行われているサッカーのサンパウロ州選手権と、始まったばかりのリベルタドーレス杯の話題が中心で、大会開幕が近づいているにもかかわらず、一向に野球の記事は出てきていない。

 サッカーに太刀打ちできないのは当たり前だが、サッカー以外の競技、バレーボール、テニス、モータースポーツ、水泳など人気スポーツからも大きく水を開けられているのが現状だ。

 これはルールによるところも大きいだろう。サッカーのようにボールだけあれば、どこでもやれる。手を使わずに、オフサイドなしにボールを相手のゴールに入れるというルールも分かりやすい。一方、野球のち密さは知れば知るほど面白いが、ルールを覚えるところでつまずいてしまうのかもしれない。それに何といっても、1秒たりとも見逃せないスピード感、即興性という魅力がブラジル人の気質にも合っている。

 また、ブラジルでこれほどサッカーが根付いているのは、ワールドカップ(W杯)という国を一つにまとめるイベントが4年に1回定期的に行われていることも大きい。30年の第1回大会から2010年の南アフリカ大会まで、戦争を挟んだ一時期以外、80年間4年に1回の大イベントをやり続けているのだから。

 とはいえ、ブラジル代表が、WBCでもしもキューバか日本を破るような大金星を挙げて、第2ラウンドや決勝ラウンドに進んだとしたら……。お祭り好きのブラジルのことだから、細かいルールなど気にすることもなく熱狂することだろう。

<了>

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著者プロフィール

ブラジル・サンパウロ在住。サッカー専門誌やスポーツ総合誌などで執筆、翻訳に携わり、スポーツ新聞の通信員も務める。ブラジルのサッカー情報を日本に届けるべく、精力的に取材活動を行っている。特に最近は選手育成に注目している。忘れられない思い出は、2002年W杯でのブラジル優勝の瞬間と1999年リベルタドーレス杯決勝戦、ゴール横でパルメイラスの優勝の瞬間に立ち会ったこと。著書に「彼らのルーツ、 ブラジル・アルゼンチンのサッカー選手の少年時代」(実業之日本社/藤坂ガルシア千鶴氏との共著)がある。

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