ニュルンベルクが金崎夢生に寄せる期待=清武弘嗣とのライバル関係が生む相乗効果
ブンデスリーガでデビューを果たした金崎。好プレーを披露し、アピールに成功した 【写真は共同】
突然、極東の国からテレビクルーのみならず旅行者も、このフランケン地方のレープクーヘン(蜂蜜や香辛料を混ぜたケーキの一種)の街へと押し寄せた。お目当ては有名なクリスマスのマーケットではない。磁力となったのは、金崎夢生と清武弘嗣である。ニュルンベルクのスポーツディレクター(SD)であるマルティン・バーダーも、変化に気づいている。
「もちろん日本のメディアの関心は高まっている。清武を獲得した際にも、テレビクルーが飛んできた。金崎夢生がやって来て、関心はさらに強まったが、日本の人口の半分がニュルンベルクの試合を見ていると思ってはいないよ」
独占インタビューでこう語ったSDは注目度のアップに、「期待するね。そうなるということは、2人が素晴らしい仕事をしているということだからね。われわれは今季、すでに何度かハイライトとなるシーンを目にしてきた」と話した。
「徐々に育てようとして獲得したわけではない」
「われわれの期待は、彼が成し遂げてきたことによる。19歳ではなく、24歳なんだ。だからわれわれはこう話すのさ。『彼はJリーグでもAFCチャンピオンズリーグ(ACL)、それに日本代表でもプレーしてきた。大志を抱いているし、ブンデスリーガで短期間のうちにわれわれの助けとなるだけの能力がある』とね」
“その時”は、先週末にやってきた。ドイツに渡って3週間、すでに「ムウウウウ!!」というチャントはイージークレジット・シュタディオン(ニュルンベルクのホームスタジアム)に響きわたっていた。そして24歳の誕生日の翌日、ブンデスリーガでのデビューも祝うこととなる。練習で好プレーを披露していたこともあり、63分にマイク・フランツと交代でピッチに立った。2−2で分けたハノーファー96戦で、金崎の名がニュルンベルクのボードに記されたのだ。この新戦力は、自身をもっと起用すべきだとのアピールに成功した。それこそ、自身が代表復帰のために必要としているものだ。
今日、移籍金ゼロでの各国代表選手の獲得は非常にまれであると、バーダーも承知している。獲得までには、何度か視察も済ませていた。「清武の獲得には満足しているし、その後もわれわれは日本とのつながりを保ち、名古屋とガンバ、セレッソの試合を視察した」。ただし、契約満了となる選手は契約更新にサインすることが多い。「非常に強い忠誠心と、クラブとの強い結びつきがあるからだ」とバーダーは説く。結果として高い移籍金が付随することになるが、金崎に関しては「もしも契約を延長しなければ、興味深い話になるかもしれない」と思ったという。「われわれは取引を高額でまとめることはない。市場価値が非常に高くなる選手がいるのは確かだが、われわれはケース・バイ・ケースで判断しなければならないんだ」とバーダーは話した。
友人でありライバルとなる清武との再会
「欧州のキャリアをスタートさせるにあたって、バーダーさんや監督と話して、ニュルンベルクの欧州リーグ進出圏内など上位を狙っていくコンセプトに大きな魅力を感じました。熱心なサポーターの存在も心に響き、ニュルンベルクに決めました」
「清武選手とはオファーを受けた後、そんなに話す機会はありませんでした。清武選手がいるからと移籍を決めたわけではありませんが、大分時代からピッチを離れても一番仲が良いので、彼の存在は心強いです」
ともに攻撃的な選手である清武と金崎は、友人であると同時にライバルでもある。だが日本でともにプレーしているころから、友人同士でのポジション争いがどういうことなのか、理解してきた。バーダーも心配していない。
「夢生の加入以降、キヨが本当に力を伸ばしたのを見て取れる。そう、2人とも攻撃的な位置でプレーできるが、ポジションは違うんだ」
一般的に、公平な競争が当事者の害になることはない。ニュルンベルクはリスクを冒しはしないのだ。
最新の実験を経て、「デア・クルブ」は日本への注目をさらに増すかもしれない。バーダーは「アフリカや南米よりも、アジアの選手をスカウトする方が、ずっとワクワクする。溶け込みへの問題は確かに存在するが、特別なサッカーのクオリティーがあれば関係ない」と話す。言葉は当然大事な要素だが、「溶け込もうとする意思の方が、ずっと重要なんだ」と断言する。
ドイツの習慣や文化にも慣れる必要がある。時間や清潔さを守り、敬意を抱くこと。こうしたことがドイツでは当然の価値として存在するが、「アジア人もそういう考え方を持っている」とSDは話した。
バーダーの言わんとすることは、金崎の初会見にも見て取れる。金崎は「それは典型的な日本人のメンタリティーだと思います。日本人は溶け込もうと努力するもので、新しい物事に対してオープンです」と話した。新しい挑戦に大変意欲的で、通訳を務める山守順平氏は、「彼は会見の前夜に(ドイツ語での)あいさつを覚えようとしていました」という事実も明かした。