京都橘に見る“共学化した私立校”の躍進=下剋上極まる高校サッカー新時代
ターニングポイントとなった共学化
「あれ? 京都橘って女子校じゃなかったっけ?」
そうなのだ。1902年に創立された長い歴史を誇る京都橘だが、設立時は「手芸女学校」。戦後に高等学校となったが、あくまで「女子校」だった。部活動は盛んだったが、全国にその名を轟かせていたのは、現在のVプレミアリーグにも多くの選手を送り込んでいる「女子バレーボール部」である。だが、2000年度から一部が男女共学になって校名から「女子」が消え、3年後から完全な共学校としての歩みを始めている。
そしてこれは決して珍しい現象ではない。新世紀を前にして沸き起こった共学化の全国的ムーブメントは各地を席巻しており、少子化の影響で私立校が直面することになった深刻な「生徒不足」の打開策としても共学化は切り札として用いられてきた。ひどく単純に言ってしまえば、女子校を共学化すればターゲットとなる生徒数は2倍になるからだ。
もちろん、そう単純な話ではなく、「女子校」としてのイメージがしみ付いている高校に男子生徒を呼び集めるのは容易ではない。だからこそ、こうした共学化した私学校の多くは、部活動、それも男子に人気のあるサッカーと野球に力を入れるのである。体育会系男子の活躍を通じて女子校のイメージを払拭(ふっしょく)し、学校が新時代に突入したことを内外に喧伝する。そうした役割が男子生徒の部活動に仮託される。そのために優秀な指導者を招いたり、設備を整えたり、特待制度を設けたりして、選手を集めていく。ここで新たなる強豪が誕生するわけだ。
現状は応仁の乱が起こったばかり
今年度の選手権に出場し、年代別代表やJリーガーを輩出するなど着実な実績を残している常葉学園橘(静岡県)も1997年度に共学化し、いち早く部活動の強化に努めた私立校。前年度の高校選手権でドリブル主体の特異なサッカーで“魅せた”聖和学園(宮城県)も03年から共学化が始まった私立校で、09年度の選手権で8強に進出し、全国的な強豪としての地位を確立しつつあるルーテル学院(熊本県)も01年に共学化され、強化が始まった私立校だ。こうした高校は全国にまだまだ多くあり、たとえば目立った実績はまだ残せていないが、横浜創英(神奈川県)なども今後台頭が予想される「共学化した私立校」の一つである。
近年の選手権について言われる「知らない高校が出場してくるようになった」という傾向は、そもそも以前は女子校だった高校が出てくるようになっているのだから、当然だ。サッカーがメジャースポーツとしての地位を確立するにつれて、力を入れる私立校が増えるのも必然。それは必ずしも共学化した元女子校に限った話ではない。
例えば、以前はラグビーや野球の強豪校として知られた正智深谷(埼玉県)が、サッカーの強化にも力を注ぐようになり、激戦区を抜けて今年度の選手権で初出場を果たしている。こうした傾向は全国的に今後さらに加速していくという確信がある。それだけ新たにサッカーへ投資を行っている私立校が多いのだ。
戦国時代に入ったと言われる高校サッカー。だが、実のところ、現状は応仁の乱が起こったばかりといった段階ではないか。昨年度の市立船橋(千葉県)がそうだったように、新たな方法論でよみがえった伝統校の巻き返しもあるに違いない。本格的な戦国時代、新たな群雄の台頭による下剋上が極まるのは、むしろここからの話。高校サッカーの戦国時代は、始まったばかりだ。
<了>
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植田 直通(大津→鹿島)
望月 嶺臣(野洲→名古屋)
室屋 成(青森山田)
小塚 和季(帝京長岡→新潟)
浅野 拓磨(四日市中央工→広島)
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樋口 士郎監督(四日市中央工)
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平岡 和徳監督(大津)
「大津は“変態”を育てたい」
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●コラム
「ファジアーノ岡山U−18に見る、今日的Jユース事情」