香川真司、幸運だったクルピ監督と乾との出会い=「香川を語る!!」 セレッソ大阪時代(後編)

安藤隆人

クルピ監督との「幸運の出会い」

クルピ監督の下、トップ下に起用された香川は大活躍。確かな目を持つ指揮官に恵まれた 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】

 高校3年生のJリーガーが、1年間プロとしての下地を作り上げ、迎えたプロ2年目の2007年。同級生たちがルーキーイヤーを歩み出そうとしているその時、同い年だが「プロの先輩」となった香川真司は、大きなステップを踏み出した。

 成長を後押ししたのは、小菊昭雄氏が言う「幸運の出会い」だった。この年の5月、セレッソ大阪の監督に、かつて同クラブを指揮していたレヴィー・クルピ監督が就任。彼が真っ先に目を付けたのが、当時18歳の香川だった。

「僕が見た最初の段階で、彼は人並み以上の能力を持った選手であることはすぐに分かった。練習のなかで、ボールの蹴り方、フィニッシュの精度、フィジカルの強さ、技術、シュート力を見ました。さらに一番重要なのが、試合の中でどれだけ自分の持てる力を出せるか。そのすべてを見ながら、彼の場合は試合に十分に出せるレベルだと思った」。

 プロ1年目でフィジカルの向上に努めたことが彼の才能をより輝かせ、クルピの目に留まった。
「年齢は関係なくて、才能なんです。才能があれば、僕はどんどん起用します」

躍進の要因となったトップ下での起用

 クルピの哲学にすぐに当てはまった香川は、07年4月7日のJ2第7節・サガン鳥栖戦でJ初出場を果たした。そして、5月23日のJ2第17節・水戸ホーリーホック戦で初ゴールをマーク。ここから彼の大躍進は始まった。

「彼を見てすぐに分かるのは、右足も左足も両方しっかり蹴れるということと、最高レベルの持久力を持っていること。スピードがめちゃくちゃあるわけではないが、とても速い。両足でしっかりとシュートを打つことができる。ドリブルもいいし、パスもいいものを持っているし、シュートもいい。さらにゴールに飛び込んでいく能力もあったし、点を取ることが好きで仕方がない選手だと感じました。点を取る喜びを知っていて、ゴールに向かっていく能力を持っている」

 このように香川の特性を見抜いたクルピ監督は、これまでの定位置だったボランチでも、U−19日本代表で試されていたサイドバックでもなく、トップ下で起用。この起用法が躍進の大きな要因の一つとなった。

「わたし的にはなぜ彼がボランチで起用されるのか分からなかった。香川は人より走りたいという気持ちを持っていたし、点を取ることが好きで仕方がない選手。何よりサッカーを楽しいものだと思っていた。サッカーをすること自体に喜びを感じていた。だからこそ、彼に攻撃の自由を与えたかった。そもそもわたしはディフェンスよりも攻撃重視のサッカーを求めたい。なぜかというと、シーズンが終わって上位に食い込むのは、勝利数が多いチーム。攻撃陣にディフェンスを口うるさく言うんじゃなくて、多少リスクがあっても、ある程度の自由を与えたいのです」

さらなる高みに導いた乾の加入

 4−2−3−1、3−2−4−1のトップ下もしくは2シャドーの一角を、「居場所」として与えられた香川は、水を得た魚のように伸び伸びとプレーした。この年、香川はレギュラーとして35試合に出場。U−20日本代表としても、U−20ワールドカップ(W杯)を経験し、大きなステップを踏んだ。

 そして、08年6月。躍進を続ける彼に、更なる「幸運の出会い」が訪れる。横浜F・マリノスから乾貴士がレンタルでC大阪にやってきた。2人は学年も一緒で、天才肌で同じ攻撃に最大の魅力を感じている選手。この2人がピッチ上で通じ合うのには、まったく時間がかからなかった。

 この時、開幕からスタメンに定着した香川は、U−23日本代表に定着し、平成生まれ初のA代表にも選出され、同年の5月に日本代表デビューするなど、勢いに乗っていた。
「僕が来たときには、もうあいつの勢いはすごかった。同い年だし、すごく意識しました。でも、プレーしてみてすごくやりやすかった。ただ、比較されるのは嫌でしたけどね(笑)」

 横浜FMで出場機会を失い、U−20日本代表にも選ばれず、U−23日本代表にも入れなかった。だが、持っている技術は疑いの余地はなく、乾が求めていたのは、自分の能力を生かせる環境だった。香川はクルピの下でそれを得たように、乾もクルピの下でそれを得た。そして、この2人が共鳴することで、お互いの能力をさらに高いレベルに引き上げることとなった。2シャドーとして、イマジネーションあふれるコンビネーションで、2人はゴールを量産し始める。

「乾は何かを持っている。あいつが来たことで助かった。加入して、すぐにフィーリングがあった。技術、足元、足首の柔らかさ。相当なテクニックを持っていますね。それでいて速い。本当にすごい。自分に来ていたマークは分散したし、お互いにフリーになれる機会が増えた。本当にプレーしやすくなった」
 香川がこう語ったように、新しいパートナーの存在を歓迎した。そしてこの年、香川は35試合に出場し、16得点10アシストをマーク。乾も20試合に出場し、6得点を挙げた。

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著者プロフィール

1978年2月9日生まれ、岐阜県出身。5年半勤めていた銀行を辞め単身上京してフリーの道へ。高校、大学、Jリーグ、日本代表、海外サッカーと幅広く取材し、これまで取材で訪問した国は35を超える。2013年5月から2014年5月まで週刊少年ジャンプで『蹴ジャン!』を1年連載。2015年12月からNumberWebで『ユース教授のサッカージャーナル』を連載中。他多数媒体に寄稿し、全国の高校、大学で年10回近くの講演活動も行っている。本の著作・共同制作は12作、代表作は『走り続ける才能たち』(実業之日本社)、『15歳』、『そして歩き出す サッカーと白血病と僕の日常』、『ムサシと武蔵』、『ドーハの歓喜』(4作とも徳間書店)。東海学生サッカーリーグ2部の名城大学体育会蹴球部フットボールダイレクター

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