香川真司、幸運だったクルピ監督と乾との出会い=「香川を語る!!」 セレッソ大阪時代(後編)

安藤隆人

J1昇格の原動力となった香川と乾

森島寛晃氏の背負った背番号8を継承した香川。乾とのコンビでJ1昇格の原動力となる活躍を見せた 【写真:杉本哲大/アフロスポーツ】

 そして、大きな結果を生み出したのが、09年だった。香川は前年に引退した「ミスターセレッソ」の森島寛晃氏の背負った背番号8を継承し、乾も31番から7番となった。「乾と真司は軸。2人とも冷静で、簡単にボールを失わない。いいプレーを見せてくれる」とクルピ監督が全幅の信頼を寄せた2人は、開幕から爆発した。08年より成熟してきたコンビネーションで、次々とゴールを量産した。

「あいつとはプレーのインスピレーションが合う。特にゴール前でのテクニックの感覚が本当に合うんです。特に会話をしているわけでもないのに、ゴール前のインスピレーションが一緒で、ゴールに対して、同じ絵を描いていることが多い」と香川が語れば、「あいつの動きは、特に話し合わなくても分かる。感覚ですかね。どこにいるか、何を考えているかが分かるんです」と乾も香川を評す。

 この「幸福な関係」は、2人の強烈なライバル意識にもつながり、2人が織りなす競争が、さらに互いを磨き上げた。
「やっぱり意識しちゃいますよね。あいつがゴールを決めると、嬉しいけど、悔しいですよね。俺も負けたくないって」(乾)
「同い年ですし、チームメートであるけどライバルでもある。あいつが点を取ると、やっぱり悔しいですよね。お互い意識しあっているからこそ、悔しいのだと思う」(香川)

 香川がゴールを決めれば、乾がゴールを決める。乾がゴールを決めれば、香川がゴールを決める。気がつけば2人だけでチームの総得点の約半分の47ゴールと量産(香川27ゴール・J2得点王、乾20ゴール)し、J1昇格の紛れもない原動力となった。

右肩上がりの成長もまだまだ続く香川の夢

「真司は常にこういう右肩上がりの成長でした。常に成長を続けていた。わたしが常々サッカーにとって何が一番うれしいのかというと、それはゴール。真司に常々言ったのが、『とにかく点を取れ。点を取ることで、サッカーの道が開ける』ということ。さらに彼の大きなストロングポイントは、ゴールへの意識が高く、ゴールに向かっていくプレーができるということ。日本の中盤の選手はバックパスが多かったり、横パスが多かったりするけど、真司はもっと縦にいくプレー、前にいくプレーができる。そこは大きな違い」

 クルピ監督の教えを、ベストパートナーとともに、しっかりと実践したからこそ、彼はより上のステージに行く権利を得た。クルピ監督は自らの下を巣立ち、さらなる成長を続けていく香川の姿を、まるで親のように目を細めて見つめている。

「これはブラジルでもよくあることなのですが、タイミングよく若手を起用しても、失敗するケースもあるし、タイミングが悪く起用しても、成功するケースもある。いろんなことが言えます。これはもう運命、運の部分だと思います。それを論理的に説明することは誰もできない。だが、大事なのは本人がサッカーが好きで仕方が無くて、それで飯が食べられる喜びを感じること。サッカーに対する愛情がないと成功はしないし、成長しないと思う。成功するかしないかの一番のカギは、夢を追い続けられるか、そうでないか。そういう意味では真司は輝いていた」

 そして、クルピ監督が香川に送ったメッセージは、温かく、さらなる高みを目指してほしいという思いが込められていた。
「夢を抱くことをやめてはいけない。夢があってこそ、僕らは成功を勝ち取ることができるのだから」

 香川真司の夢はまだ続いている。マンチェスター・ユナイテッドの一員として、世界のトップレベルでプレーをする。これが決してゴールではなく、さらなる夢に向かってのステップであり、これからもさらに「幸福の出会い」を重ねていくだろう。それがフットボーラー・香川真司の継続していくべき運命なのだ。

<了>

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著者プロフィール

1978年2月9日生まれ、岐阜県出身。5年半勤めていた銀行を辞め単身上京してフリーの道へ。高校、大学、Jリーグ、日本代表、海外サッカーと幅広く取材し、これまで取材で訪問した国は35を超える。2013年5月から2014年5月まで週刊少年ジャンプで『蹴ジャン!』を1年連載。2015年12月からNumberWebで『ユース教授のサッカージャーナル』を連載中。他多数媒体に寄稿し、全国の高校、大学で年10回近くの講演活動も行っている。本の著作・共同制作は12作、代表作は『走り続ける才能たち』(実業之日本社)、『15歳』、『そして歩き出す サッカーと白血病と僕の日常』、『ムサシと武蔵』、『ドーハの歓喜』(4作とも徳間書店)。東海学生サッカーリーグ2部の名城大学体育会蹴球部フットボールダイレクター

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