2014年世界選手権出場へ見えた成果と課題=バスケ・アジアカップ総括

小川勝

2人の大学生が見せたチーム力向上の可能性

アジアカップではシュートをしっかりと決め、今後の活躍に期待が高まった21歳の田中(右) 【写真は共同】

 昨年のアジア選手権(ロンドン五輪予選)で7位に終わり、トーマス・ウィンスマンHCから鈴木HCに代わった結果、続けて選出されたのは竹内公輔のほか、今回はポイントガードを務めた桜井、bjリーグからただ1人選出されている太田敦也(浜松東三河)の3人だけだった。竹内譲次のように、故障がなければ選ばれていた選手もいるが、大幅に顔ぶれが変わったことは間違いない。

 その中で、2014年の世界選手権に向けて、チームに向上の可能性を見いだすとすれば、それは比江島慎(青学大)、田中大貴(東海大)という大学生2人だ。

 比江島は大学4年の22歳。190センチあるが、代表チームでは桜井に次ぐポイントガードの二番手を務めた。ドリブルはいささか荒っぽいが、短いパスを出す時に、独特の機敏さがある。プレータイムは5分から15分程度で、いかにも若さの出たターンオーバーもあったが、スピードは十分に通用した。
 「高さとフィジカルの強さですね。速さは、日本の大学の方が速い。ただ大学なら、1人目を抜けばだいたいレイアップに行けるんですけど、この大会では抑えられてしまう。」
 しかし準決勝のカタール戦では、果敢なドライブからのリバースレイアップ、そしてパスも出しながら、フリーでボールを受けてのミドルも決めるなど、約15分の出場で11得点、2アシストを記録した。

 田中は191センチのシューター。長距離シュートで、リリースする時の、リラックスした手の動きが素晴らしい。試合前半の競った場面から出場して、予選ラウンドのカタール戦では約13分の出場で3本のシュートをすべて沈め8得点。準決勝のカタール戦では最長の約20分間プレーした。大会7試合の通算で2点シュートが「14−9(64%)」、3点シュートが「19−7(37%)」、フリースローが「6−4(67%)」だった。

 大学3年の21歳で今回のメンバーの中で2番目に若いが、その点について本人は次のように語っている。
 「自分の年代も、僕としては、若いとは思ってないです。世界を見たら、自分と同じ年代の選手が活躍していますから。自分が若いっていう考えは捨てて、ぜんぜん若くないんだと。そういうことを、みんなとも話しているんで」
 
 確かに、今回のイラン代表には田中と同じ91年生まれの選手がいたし、それより若い選手も4人、メンバーに入っていた。田中のように考える有望選手がいて、その考えを、学生選手たちが共有していることは、日本のバスケットボール界にとって期待できる要素だ。

さらなるレベルアップのために欠かせない国内リーグの充実

 鈴木HCは、準優勝という結果に一定の手応えを覚えつつ、次のように語った。
 「うれしいのは大学生が活躍したこと、それもカタールやイランといったアジアの強いチームを相手に、試合の大事な局面で活躍したこと、結果を出せるようになったことです。(ウィリアム)ジョーンズカップの途中あたりから、そういう面が見えていたんですが、彼らが成長してくれたことがうれしい。大学に戻っても、練習をする時の意識は、国際試合を意識してやってほしい」

 日本のバスケットボール界は、来年から国内リーグが新しくなる。現在の日本リーグ(JBL)に、bjリーグから千葉ジェッツ、さらには新設のチームなどを迎えて、来秋から新リーグ「NBL」として新たに出発する。ちょうどアジアカップの期間中、新リーグに参加する予定だったJBLの老舗チーム、パナソニックが今季限りでの休部を検討しているニュースが報道された。

 日本代表にも金丸晃輔、渡邉裕規の2人が選ばれていて、大会期間中に所属チームの休部検討を聞かされることになり、精神的には厳しい状況でのプレーだった。だが、それでも全試合先発で出場した金丸は、今では日本を代表する3点シューターであることを、はっきりと証明した。来季に向け、所属チームは新たなスポンサーを得て存続できるかまだ未定だが、日本代表のレベルを維持するためにも、新リーグが計画通り船出することは重要になる。

 充実した国内リーグなくして、日本代表のレベルアップも期待できない。日本のバスケットボールをめぐる状況は楽観を許さないが、期待できる若い力も、確実に出てきている。プレー環境がどうであれ、見る者の胸を熱くするような、若い力の向上心あるプレーが見たい。

<了>

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著者プロフィール

1959年、東京生まれ。青山学院大学理工学部卒。82年、スポーツニッポン新聞社に入社。アマ野球、プロ野球、北米4大スポーツ、長野五輪などを担当。01年5月に独立してスポーツライターに。著書に「幻の東京カッブス」(毎日新聞社)、「イチローは『天才』ではない」(角川書店)、「10秒の壁」(集英社)など。

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