セルビアの高校球児、野球大国日本を目指す=知られざる東欧野球事情と草の根国際交流

宇都宮徹壱

イチロー、ゴジラ、ダイスケはセルビアでも有名

でこぼこのグラウンドで始まったセルビア野球だが、少年野球チーム8つもできるまでに拡大してきた 【(C) Tomoyuki Tatsumi】

――今回のセルビア高校球児の日本遠征アイデアを思い立ち、それを実行に移すまでに至った経緯を教えてください

 セルビアでの任務を終え、同国を離れたのは3年ほど前ですが、私が所属していたベオグラード96や野球連盟の方々とはメールやフェイスブックで交流を続けていました。そこで近況を聞いていると、ここ数年で野球の裾野がさらに広がっている様子が感じ取れました。特に、少年野球のチームがいくつか立ち上がったり、大人の選手が小学校へ行って野球教室を開いたりしているのを見て、これは非常にいい展開だと感じていました。私は今はイラクに赴任中ですが、ここから何かできることはないかと考えたときに、この企画のアイデアが浮かびました。

――アイデア自体はもちろん素晴らしいですが、イラク、セルビア、日本という距離感が相当なネックだったと思います。最初はどのようなアプローチだったのでしょうか?

 まずセルビアの野球連盟に相談したところ、「それは素晴らしい!」と言いつつ、信じていないのがよく分かりました(笑)。続いて相談したのが、日本にいる弟でした。というのも私はイラクにいますので、実現の可否は日本で誰かが実働してくれるかどうかにかかっていたからです。弟は軟式野球チームの代表でもありますし、私の思いをくみ取ってくれて快諾してくれました。この瞬間、この企画は地に足が着きました。

 そこで、まだ冗談だと思っているセルビア側にわれわれの本気度を伝え、何度かメールでやりとりしてようやく向こうも実感が湧いてきたようでした。ただし、私からはひとつ条件を出しています。それは「セルビア側も募金活動を行って、一定の経費を捻出する」というものでした。お金持ちの日本に招待してもらった、というのではなく、国力に応じて対等な立場で準備をした、という気持ちで来日してほしいと思ったからです。

――大事なことですよね。そこから先はトントン拍子という感じですか?

 大まかにはそうですね。セルビア側はすぐに来日代表選手12名の確定作業を開始し、家族への説明、パスポートの確認、募金活動などに取り掛かりました。日本側は有志を募って、すぐに実行委員会を設立し、高野連への打診や対戦予定高校との調整、宿泊場所の確保、航空券の手配、そしてセルビア大使館との調整、募金活動などを展開しています。私はイラクからメールや電話を通じて、それら全体の調整をやっています。

――こうなるとプロジェクトの実現が待ち遠しいですね。ところで日本野球に対する彼らの知識は、どのようなものでしょうか?

 残念ながら知識はゼロに近いですね。メジャーリーグの試合は、衛星テレビでもネットでも観られますが、日本のプロ野球はそうではないですから。ただし、イチロー、ゴジラ(松井秀喜)、ダイスケ(松坂大輔)は皆知っています。ダルビッシュ(有)もそろそろでしょうか。それでも日本が、WBC(ワールド・ベースボール・クラシック)を連覇したということは皆知っています。ですので「野球大国」という印象は強く持ちながら、選手個人のことはあまり知らない、という状況だと思います。

――セルビアの野球は、まだまだ発展途上にあると思います。そんな中、彼らにポテンシャルや将来性を感じる部分があるとすれば、どんなところでしょう

 宇都宮さんもご存じの通り、セルビア人は非常に球技に長けています。これは民族の遺伝子と言ってもよいかも知れません。野球部のメンバーとサッカーやバスケットボールをすると「何で野球やってるの?」と思えるくらい、みんな上手いんですよ。

 成年以上の野球人口はおそらく300人程度だと思いますが、そんな小さな母集団から選ばれたセルビア代表のレベルは、おそらく高校野球の1回戦では負けないぐらいのレベルではないかと思います。ですので野球人口が順調に増えていったら、欧州のAレベルぐらいにはすぐに到達するのではないかと思っています。

この秋はセルビアン・ベースボールに注目!

――今回のプロジェクトについて、受け入れ側の反応はいかがでしょうか?

 高野連も親善試合をお願いした高校も快諾してくれています。特に各校にとっては、国際試合というレアな機会ですので、監督も選手たちも楽しみにしてくれている様子でした。ただ試合になると、かなりのカルチャーショックが起こるだろうと、ある意味少し心配、一方で楽しみにしています。

――と言いますと?

 ご存じの通り、日本の高校野球というのは非常に規律が厳しい。そこに、のびのびしたセルビア代表がやってきた場合、双方がカルチャーショックを受けることは想像に難しくありません。例えばセルビア野球では、サッカーのように審判にネゴります。日本側はびっくりするでしょうね。また、セルビアではボールはボールであり、日本野球のように神聖化されていませんので、よく足で蹴ります(笑)。日本側はぼうぜんとするでしょうね。逆に、日本の高校野球の軍隊的あいさつや動作は、セルビア側をあんぐりさせるでしょう。そこは変な誤解を生まないように、双方には事前に少し伝えておこうとは思っていますが。

――いやあ、野球をまったく観ない私でも、非常に楽しみになってきました。それでは最後に、主催者側からの告知やメッセージをお願いします。

 高校野球セルビア代表来日企画は、多くの方に支えられて準備が進んでいます。この場をお借りして心から感謝申し上げます。同企画の詳細についてはフェイスブック上でも公開していますので、そちらにもぜひお立ち寄りください。

 試合日程については以下のような予定です。

9月29日(土)親善試合 対関西学院高校(10:00〜於同校)
9月30日(日)親善試合 対淀商業高校(10:00〜於同校)
10月4日(木)親善試合 対北野高校(17:00〜於舞洲ベースボールスタジアム)
10月6日(土)親善試合 対早稲田摂陵高校(15:00〜於同校)

 今後の準備状況、来日後の親善試合やプロ野球観戦の様子、地域行事への参加など、フェイスブックの同企画のページに、写真とともに常時アップして参りますので、引き続きご注目いただけたら幸いです。特に関西におられる方は、ぜひ親善試合に足を運んでいただき、セルビアの高校生たちに声援を送ってあげてください。よろしくお願いいたします!

――プロジェクトの成功を心より祈念しております。今日はありがとうございました!

<了>

●辰巳知行(たつみ・ともゆき)

1968年大阪府生まれ。北野高校野球部99期主将。
早稲田大学人間科学部卒業。大阪大学大学院国際公共政策研究科修了。
(株)ミキハウスを退社後、国際協力の世界へ。NGO、国連PKO、JICAなどに所属し、コソボ、カンボジア、リベリア、セルビア、ボスニア・ヘルツェゴビナ、イラクなどの紛争影響国において戦後復興支援に従事。現地のマイナー野球を支援・応援することを喜びとしている。

高校野球セルビア代表来日情報

高校野球セルビア代表来日支援企画に関する情報はフェイスブックページでご覧になれます。
URL:http://www.facebook.com/SRBbaseballJPN

また、本企画では、必要諸経費約250万円の募金活動も行っています。以下の寄付支援サイトから、クレジットカードまたはオンライン・バンキングでご支援いただけます。
URL:http://justgiving.jp/c/8393

 または、実行委員会の以下の銀行口座へ、直接お振込みいただくことも可能です。

りそな銀行 歌島橋支店(店番115)
口座番号:(普通)6545064
口座名義:トクヒ)ニシヨドガワフクシ. ケンコウネツトワーク

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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