岐路に立たされたベンゲル監督の美学=アーセナルは優勝争いをできるのか

平床大輔

心もとない守備戦力

開幕から3試合連続無失点に抑えている守備陣だが、ワールドクラスは主将のベルマーレン(左)だけ。選手層は薄く、補強が求められる 【Getty Images】

 翻って守備面はというと、これまで無失点できたその成績に反し、どうしてもあらが目立ってしまう。昨シーズン、芸術的とも言えるボール奪取能力で中盤の番人として、守備陣の負担を大幅に軽減していたソングの不在は、そのままダイレクトにディフェンス面の不安として響いてきそうだ。前述したボールド・コーチの加入により、守備組織の安定化が進むアーセナルではあるが、その絶対的な守備戦力は心もとないと言わざるを得ない。これは、かれこれ数シーズン来指摘され続けていることではあるが、ワールドクラスのディフェンダーがベルマーレンただ一人だけという状況はいかにもまずい。

 センターでその新キャプテンとコンビを組むローラン・コシェルニーも優良なセンターバック(CB)には変わりないが、いまだに“竹クラス”の域を脱しきれずにいる。それに加え、俊敏性に乏しいペア・メルテザッカー、ミスの多いヨハン・ジュルー、そして昨季はほとんど戦力にさえならなかったセバスティアン・スキラチと、すきの多いCBのバックアッパーには何かと不安要素が目立つ。

 右サイドバック(SB)については、10月にバカリ・サニャが復帰することにより厚みは増すが、左SBには依然として人材難を抱えたままである。サイド攻撃で大きな役割を果たすギブスは将来性を感じさせるプレーヤーではあるが、守備面での安定性に欠けるきらいがある。そのギブスとポジション争いをするのは、いろいろな意味でそれ以上に安定していないサントスである。ベンゲル監督が今季無冠にピリオドを打つことをシリアスに考えているのであれば、今冬、CBと左SBに名の通った人材を補強する必要があるだろう。

ベンゲルに課された最も大きな命題は

 さて、プレミアリーグ全体を見渡してみると、今シーズンも戦力的に頭抜けたマンチェスターの二強が優勝争いをけん引することになりそうだ。その二強の争いに唯一食い込んでいけそうなのはチェルシーで、相対的な戦力差を考慮すると、それに続く4位がアーセナルにとっての現実的な目標となるだろう。来季のチャンピオンズリーグ(CL)出場権を争うライバルになるであろうトッテナムとリバプールはどちらも新監督を迎えたばかりとあって、今季で就任17年目を迎えるベンゲル監督の継続性に一日の長がある。

 選手にとって大きなモチベーションとなるCL出場権の死守がベンゲル監督にとって今シーズンのノルマとなるのは言うまでもないが、今季のベンゲル監督に課された最も大きな命題は、早い段階でリーグ戦のタイトル争いから消えることなく、できるだけシーズン終盤まで優勝の可能性を残し続けることである。無冠が続くことにより一番怖いのは、選手個々からタイトルのイメージが薄らいでいくことであり、それこそが主力選手の流出に直結しているのは恐らくベンゲル監督自身が誰よりも実感していることだろう。来年の夏、誰でもないベンゲル監督自身が深いため息を漏らさぬよう、今シーズンは、アーセナルが4位争いをするグループに属しているのではなく、タイトルレースにより深く関わっていることにリアリティーを持たす必要があるわけだが、その状況でベンゲル監督並びにアーセナル首脳陣がどのようなかじ取りをするのか、それは大いに注目に値する。

<了>

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著者プロフィール

1976年生まれ。東京都出身。雑文家。1990年代の多くを「サッカー不毛の地」米国で過ごすも、94年のワールドカップ・米国大会でサッカーと邂逅(かいこう)。以降、徹頭徹尾、視聴者・観戦者の立場を貫いてきたが、2008年ペン(キーボード)をとる。現在はJ SPORTSにプレミアリーグ関連のコラムを寄稿

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