イタリア代表はアイデンティティーを取り戻せるか=W杯予選で見せた悪しき伝統と今後への希望

ホンマヨシカ

目に付いたのは若手選手の抜てき

イタリアはブルガリアの激しいプレッシングに苦しみ、初戦をドローで終えた 【Getty Images】

 ユーロ(欧州選手権)2012の決勝戦でスペインに完敗したものの、大会前の予想に反して決勝進出を果たしたチェーザレ・プランデッリ監督率いるイタリア代表が、2014年に行われるワールドカップ(W杯)・ブラジル大会の出場権獲得に向けてスタートを切った。

 9月7日のブルガリア戦(アウエー)と11日のマルタ戦(ホーム)にはGKジャンルイジ・ブッフォンやMFアンドレア・ピルロ、MFダニエレ・デ・ロッシらおなじみのメンバーが招集された一方で、負傷やコンディション不良でFWマリオ・バロテッリ、FWアントニオ・カッサーノ、DFジョルジョ・キエッリーニら有力選手が選外となった。

 選出メンバーで目に付くのは多くの若手選手の抜てきである。ナポリに所属する21歳の新鋭FWロレンツォ・インシーネと、ピルロの後継者候補としてペスカーラをセリエA昇格に導き、今シーズンはパリ・サンジェルマンに引き抜かれたマルコ・ヴェッラッティがその代表格だ。この流れが示すように、開幕したばかりの今シーズンのセリエAを見ても、例年になく各クラブで若いイタリア人選手に活躍の場が与えられている。

 昨シーズンの終盤だったか、ある雑誌に10−11シーズンのヨーロッパ各国リーグにおける生え抜き選手(最低3シーズン所属している)が育ったクラブからデビューした割合が記載されていた。イタリアの場合、ヨーロッパ各国のトータル平均23.1パーセントを大きく下回るワーストの7.4パーセントだった。

 この割合が高い国はクロアチアやフィンランドなど財政的に裕福なクラブを持たない国なのだが、サッカー強国であるスペインの24.7パーセント、イングランドの16.2パーセントなどと比べても、やはりイタリアにおける若手選手の活躍の場は極端に少なかったと言える。

 こうした状況が変わったのは、有能な若手が育ってきたことに加え、折からの不況の影響でイタリアのクラブが数シーズン前のように大物選手を獲得できなくなったり、海外のビッグクラブからの札束攻撃でスター選手を手放さざるを得なくなったことに起因している。それゆえ、若い選手を(イタリア人選手、外国人選手に限らず)起用するしかなくなったという状況が生まれたことが大きい。

 各クラブ、とりわけ結果を求められるビッグクラブにとっては痛いことかもしれないが、イタリア代表にとっては若い選手が出場機会を得られるという点で、非常に好都合な状況だろう。

ブルガリアのプレッシングに苦しめられ

 さて、7日にソフィアで行われたブルガリア戦だが、追い込まれないと力を発揮できないというイタリアの悪癖が出て2−2の引き分けに終わった。

 プランデッリがピッチに送り込んだのは、GKブッフォン、DFが右からアンドレア・バルザッリ、レオナルド・ボヌッチ、アンジェロ・オグボンナ、MFが右からクリスティアン・マッジョ、クラウディオ・マルキージオ、ピルロ、デ・ロッシ、エマヌエレ・ジャッケリーニ、2トップがセバスティアン・ジョビンコ、パブロ・ダニエル・オスバルドの11人。システムはユーロのクロアチア戦以来となる3−5−2を採用した。

 昨シーズンからの好調を新シーズンも維持しているユベントスの選手を7人配し選手間のスムーズな連係を狙った布陣である。

 ブルガリアが仕掛ける激しいプレッシングに手を焼いたイタリアは、常に後手に回る展開となり、持ち前のパスをつなぐサッカーができずに序盤から苦しい戦いを強いられた。しかし、前半30分にブルガリアのスタニスラフ・マノレフにミドルシュートを決められ1点を追いかける展開になると、やっとエンジンが掛かり、スピードも増してパスをつなげるようになった。そしてイタリアは失点から6分後の36分と40分にオスバルドがゴールを決めて逆転に成功し、試合を折り返す。

 後半はまず立ち上がりにジョビンコが惜しいシュートを放つが、追加点を決められないまま経過していく。プランデッリは後半19分にファンタジスタのアレッサンドロ・ディアマンティを投入。同タイプのジョビンコとの交代と思われたが、プランデッリは予想に反して左MFのジャッケリーニを下げる。

 イタリアはこの交代でシステムを4−3−1−2に変更したが、その直後の後半21分に左サイドを突いたマノレフが低いクロスを中央に供給すると、ゴール前に飛び出したゲオルギ・ミラノフが左足で合わせて同点ゴールを決めた。プランデッリは後半24分にオグボンナに替えてフェデリコ・ペルーゾを、28分にはジョビンコに替えてマッティア・デストロを投入し、立て直しを図るが、35分にデ・ロッシが右足太もものねんざで退場(デ・ロッシの負傷は全治20日間と診断)。このアクシデントによる数的不利で戦うはめになったイタリアは、その後はペースをつかめず、結局2−2の引き分けで試合は終了した。

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著者プロフィール

1953年奈良県生まれ。74年に美術勉強のためにイタリアに渡る。現地の美術学校卒業後、ファッション・イラストレーターを経て、フリーの造形作家として活動。サッカーの魅力に憑(つ)かれて44年。そもそも留学の動機は、本場のサッカーを生で観戦するためであった。現在『欧州サッカー批評』(双葉社)にイラスト&コラムを連載中

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