藤野大樹、ロンドンの悔しさをリオで晴らすための一歩=フェンシング日本選手権個人戦

田中夕子

メダリスト2人を撃破し、再びつかんだ日本一の栄冠

 4年前は“太田効果”だけに沸いたフェンシング界だが、今回、団体戦のメダル獲得がもたらした効果はさらに大きく、太田に限らず、試合が行われている合間に、スタンドで休憩する千田、三宅、淡路のもとにはサインや写真撮影を求める人が絶え間なく訪れ、その1つ1つに丁寧に応じる姿があった。
 注目度が増せば、プレッシャーも増す。
 2度目の五輪でメダリストとなった千田は、2回戦敗退。その勲章が恩恵ではなく試練となった。
「4年前は太田くんの影に隠れていればよかった。でも今は立場が違うし、メダリストとして臨む以上勝たなきゃいけないという気持ちが強かった。練習が全然できていなかったのも確かですが、それ以前に、プレッシャーに負けました」
 
 千田と同様に、やはり練習時間は万全とは言えないながらも、「誰もがメダリストのプレッシャーを持って戦えるわけではない」と状況をプラスに切り替え、初制覇を目指して臨んだ若手の淡路を準決勝で、三宅を準々決勝で打破したのは藤野だ。

「銀メダルを獲った素晴らしい選手たちだからこそ、彼らに勝つことが、自分の力の証明になる、と思っていたので、絶対負けたくない相手でした」
 右から左へ、手首を返すように剣を動かす「振り込み」が面白いように決まった。もともと得意とする技ではあったが、左利きの三宅、淡路に対してより有効であることを熟知したうえで、必殺技としてではなく、ポイントを獲るために効果的な技の1つとして、ポイントとなる場面で繰り出した。
 決勝戦では昨年までは全く勝てなかった福田に対しても、今年は最初から落ち着いた試合運びで進め、終始リードを保った。
 14−9、あと1点の場面で繰り出した技は、やはり得意の振り込み。
「やっと、自分のフェンシング、というものが見えてきました」
 悔しさを乗り越えて、今、視線の先に、描く目標がある。
「リオは、自分がメダルを獲りに行きます」
 もう伏兵とは呼ばせない。堂々の連覇を達成し、エース候補に名乗りを挙げた。

<了>

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著者プロフィール

神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、『月刊トレーニングジャーナル』編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。著書に『高校バレーは頭脳が9割』(日本文化出版)。共著に『海と、がれきと、ボールと、絆』(講談社)、『青春サプリ』(ポプラ社)。『SAORI』(日本文化出版)、『夢を泳ぐ』(徳間書店)、『絆があれば何度でもやり直せる』(カンゼン)など女子アスリートの著書や、前橋育英高校硬式野球部の荒井直樹監督が記した『当たり前の積み重ねが本物になる』『凡事徹底 前橋育英高校野球部で教え続けていること』(カンゼン)などで構成を担当

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