トラブルは多々あれど、終わってみれば大成功=ロンドン五輪

英国ニュースダイジェスト

斜に構える英国人も五輪ムードに

ボランティアスタッフの活躍も大会を盛り上げた 【Getty Images】

 慢性的な混雑や制度疲労に悩まされる公共交通機関への不安や、長引く不景気の最中で当初の約3倍に膨れ上がった予算を必要とする国家プロジェクトを実施することへの懐疑など、開幕前は懸念ばかりが伝えられている感のあったロンドン五輪だが、終わって見れば、大成功だったと言えるだろう。

 人気映画監督のダニー・ボイルが指揮した開会式は、映画『007』の登場人物であるジェームズ・ボンドと一緒にエリザベス女王がパラシュートで落下し、また人気サッカー選手のデービッド・ベッカムがスピードボートを操縦して聖火を運ぶという独創性あふれる演出が好評だった。
 また会場付近や主要駅近辺に大量に動員されたボランティアのメンバーたちは、まるでディズニーランドに勤務するスタッフのように誰もが明るい笑顔を振りまいて大会を盛り上げた。そして英国の金メダル・ラッシュ。英国のトップ選手たちの強化を担う機関が掲げた「最低でも40個」としていたメダル獲得目標を大幅に上回る、戦後最多の65個(うち金メダルは29個)のメダル獲得に英国中が沸いた。

 こうした主催者側の努力や英国人選手たちの活躍を目にして、普段は斜に構えた態度で知られる英国民たちも五輪ムードに乗じた。街中至るところで、英国国旗の模様をあしらった服装に身を包んだ人々の姿を見かけた。ロンドン市内各地に設けられた五輪中継用の大型スクリーンの前はいつも人でいっぱい。五輪会場やマラソン・コースの沿道に出向くと、地元民らしき人々から「どの国を応援しているの」といった聞き方で頻繁に声をかけられた。まさに、国民全体がロンドン五輪をつくり上げていたのである。

多少のトラブルは笑い飛ばす

 トラブルもあった。五輪会場などの警備を担うことになっていた民間警備会社が五輪開幕直前になって人数を確保できないとの見通しを発表し、バスなどの公共交通機関やヒースロー空港への入国審査を行う英国国境局職員などがストライキを予告。また大会1日目のサッカー女子1次リーグでは、試合前の選手紹介で、よりにもよって北朝鮮の国旗と間違えて韓国の国旗を電光掲示板に表示させるという失態を五輪運営スタッフが犯した。
 しかし、英国民の強みは、どんよりとした天気さえ楽しむことができるユーモアのセンス。こうしたトラブルは織り込み済みとばかりに、笑い飛ばす余裕があった。

 また大会の序盤で最も騒がれたのが、空席問題だった。どの競技場でも2階、3階席は国旗や双眼鏡などを手にする観客で埋まっているにも関わらず、1階席の中央には大規模な空席スペースができていた。大会関係者たちに無償提供するために確保されていたというこれらの席は、観戦チケットを入手できなかった一般市民たちからの批判の対象になり得たが、すぐに各会場の警備を担当する英兵や大会を支えたボランティアたちが埋めた。
 彼らの笑顔が会場のスクリーンに映し出された際に一般客たちが拍手や歓声を送るという習慣が定着し、また柱などによって視界を一部さえぎられた席のチケットの持ち主をそうした優等席に優先的に移動させるなどの対応が取られるようになると、空席問題はあまり報じられなくなった。

 英国統一チームの結成で話題を集めたにも関わらず、男女ともに8強で敗れたサッカーでは、ほかの競技における英国代表の成績が好調であっただけに、とりわけ人気と高給を集める男子サッカー選手への風当たりが強くなるといった風潮が見られた。
 また注目が五輪観戦に一極集中したためか、ロンドン市内のレストランや劇場、美術館といった観光名所は閑古鳥が鳴いていた。しかし、こうしたニュースが、五輪の盛り上がりに水を差すようなことはなかった。筋肉質な体とあどけない笑顔のギャップで人気を集めた陸上女子7種競技のジェシカ・エニス。ウィンブルドン選手権の決勝で惜敗したロジャー・フェデラーに雪辱を果たした男子テニスのアンディ・マレー。男子ケイリンでの勝利によって、英国人選手で単独史上最多となる金メダル6個の記録を打ち立てたクリス・ホイ。両手を使って自身の名前のイニシャルである「M」の文字を頭上に作るポーズで人気を集めた5000メートルと1万メートルの覇者モハメド・ファラー。

 五輪開催期間を通じて、テレビや新聞そして市井の人々が話題に事欠くことはなかったと言っていいだろう。

ロンドン五輪の成否が分かるのはこれから

 ただ、ロンドン五輪の成否が明らかになるのはまだ先のことになる。今回の五輪の主な舞台となったロンドン東部は、英国内でも最も貧しい地域の一つとされてきた。土壌が有害物質に汚染された工場跡が多く残り、低所得者や失業者が多く暮らす一帯というのが、ロンドン市民たちがこの地区に対して抱く一般的なイメージだったのである。

 五輪開幕が近付くにつれて、その景色が一気に変わった。五輪の主要会場を設けることでこの地域一体の再開発が急速に進められ、これまで観光客がわざわざ足を向けることなどまずないと思われてきたストラトフォード地区が人でごった返すようになったのである。

 同地区への交通機関が整備され、大型ショッピングモールもできた。今後、選手村は1万1000戸の住宅施設になるほか、その他の会場は各種スポーツ施設に転用され、オリンピック・パークの敷地内に新しく学校も建設される計画となっている。そして、こうした閉幕後の再開発計画の充実ぶりこそ、ロンドン五輪ならではの独自色として英国が打ち出してきた要素なのである。これらの工事が終了するのは数年後、そしてその成果が表れるのは十数年後となるだろう。そのとき、ロンドン五輪の成果が改めて評価されることになるはずだ。

<了>
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著者プロフィール

 英国で発行されている週刊日本語無料情報誌。1985年10月に創刊。ロンドンの日本食レストラン、日本食材スーパー、日系書店、デパート、学校、在英日系企業などを中心に無料配布を行っているほか、 英国全土における日本経済新聞国際版に折込まれている。フランス、ドイツにも姉妹誌あり。ロンドン五輪開催中は特設サイト(www.news-digest.co.uk/london-olympics)と特設ツイッター・アカウント(https://twitter.com/olympics_digest)を運営中。

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