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K Ken 中村

リチャードソンvs.メリットvs.劉翔

世界ジュニア選手権の覇者アリエス・メリットは五輪での金メダルなるか? 【Getty Images】

 女子七種競技で05年世界ユース選手権を、そして06年世界ジュニア選手権を制したタチアナ・チェルノワは昨年、世界選手権を制した。カロリナ・クリュフトが世界ジュニア(00年)と五輪(04年アテネ大会)を制しているが、今までこの種目で世界ユース選手権と五輪を制した選手はいない。チェルノワの前に立ちはだかるのは地元ファンの期待を背負った英国のジェシカ・エニスと、この種目ではジャッキー・ジョイナー・カーシー以来となる2連覇を狙うナタリア・ドブリンスカ(ウクライナ)の2人だ。

 昨年の世界選手権でも優勝して、400メートルで世界ユース選手権と世界選手権を初めて制したキラニー・ジェームスも、もし五輪でメダルを獲得すれば、初めて五輪でメダルを獲得した世界ユースの金メダリストとなる。また、グラナダにとっても陸上競技で初めてのメダルだ。

 昨年、世界ユース・チャンピオンとして初めて100メートルハードルで世界選手権を制したサリー・ピアソンは、今年の春に世界室内選手権の60メートルハードルを制した。ロンドンで勝てば世界ユースと五輪の両大会で金メダルを獲得する最初の選手となるばかりではなく、世界ジュニア選手権以外すべてのグローバル選手権を制することになる。

 110メートルハードルでは、世界ユース選手権の金メダリストであるジェイソン・リチャードソンと世界ジュニア選手権の金メダリストであるアリエス・メリット(米国)が、8年を経て五輪タイトル奪回を目指す劉翔と覇権を争う。もしメリットが勝てば世界ジュニアと五輪を制する初めての選手となり、もしリチャードソンがメダルを獲得すれば、五輪メダルを獲得した初めての世界ユースチャンピオンとなる。ちなみにメリットは現在3試合連続(予選は除く)で12秒台を記録している。五輪決勝では4試合連続の12秒台に期待が集まる。

五輪初優勝への挑戦

 ケニアの女子選手が長距離種目(5000メートル、1万メートル、マラソン)で金メダルがないことは以前のコラムでも書いたが、エチオピアには中距離種目(800メートル、1500メートル)でいまだ五輪のメダルがない。ケニアのチェルイヨットが5000メートル、1万メートルの優勝候補で、ケイタニーがマラソンの金メダル候補であるため、ケニアの不名誉な記録は解消される可能性が高い。
 一方、800メートルでは今年3月世界室内選手権で優勝したモハメッド・アマン、そして女子では同大会で4位だったファンツ・マギソのエチオピアの若手がメダル候補に名を連ねている。マギソは今季3度エチオピア記録を更新している伸び盛りの選手でもある。

 例えば100メートルと200メートルでは、男女とも米国が世界トップレベルであるために何度もアベック優勝が記録されているが、アフリカ勢が強いなか、長距離にはアベック優勝が一度もない種目がある。しかし、800メートルではケニアのディビット・ルディシャとパメラ・ジェリモが本命であり、マラソンではケニアかエチオピアがアベック優勝をしても不思議ではない。

 もし、ルディシャが勝てば(彼は今回の五輪で一番優勝の可能性が高い選手と言える)、800メートルで五輪と世界選手権の両大会を制する初めての選手となり、五輪で優勝する初めての世界ジュニアチャンピオンともなる。そしてジェリモが勝てば女子800メートルで初めての2連覇となる。

 ホスト国の選手の優勝は特別意味を持つが、今回英国選手で最も金メダルが期待されるのは七種競技のエニスと5000メートルと1万メートルのモー・ファラーだ。この3種目ともホスト国の選手が優勝したことはいまだにない。混成競技では英国のデニーズ・ルイスが00年に、メリー・ピータースが72年(この時代は5種競技)に優勝しているので、エニスが勝てば3人目の英国人となるが、5000メートルと1万メートルで優勝した英国選手はいまだいない。特に、1万メートルは3連覇を目指すケネニサ・ベケレとファラの争いになり、歴史的な名勝負となるかもしれない。

 五輪ではアジア選手が一度もメダルを獲得していない種目が多い。しかし、ロンドン大会では、カザフスタンのオルガ・リパコワ(女子三段跳び)、イランのエーサン・ハダディ(円盤投げ)、中国の王鎮(20キロ競歩)、そして中国の李艶鳳(女子円盤投げ)がメダルを獲得する可能性が高い。男子やり投げもアジア勢が五輪でメダルを獲得したことのない種目の1つだが、今季絶好調のディーン元気(早大)とベルリン世界選手権の銅メダリストである村上幸史(スズキ浜松AC)にはその可能性があるだろう。

<了>

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著者プロフィール

三重県生まれ。カリフォルニア大学大学院物理学部博士課程修了。ATFS(世界陸上競技統計者協会)会員。IAAF(国際陸上競技連盟)出版物、Osaka2007、「陸上競技マガジン」「月刊陸上競技」などの媒体において日英両語で精力的な執筆活動の傍ら「Track and Field News」「Athletics International」「Running Stats」など欧米雑誌の通信員も務める。06年世界クロカン福岡大会報道部を経て、07年大阪世界陸上プレス・チーフ代理を務める。15回の世界陸上、8回の欧州選手権などメジャー大会に神出鬼没。

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