山口螢と扇原貴宏、快進撃を支えるボランチコンビ

小田尚史

お互いにとってのベストパートナー

扇原(左)はスペイン戦で大津の決勝ゴールをアシスト。試合が進むごとに調子を上げている 【写真は共同】

 今季から、C大阪でもボランチでコンビを組み始めた1学年違いの彼らは、共にC大阪の下部組織出身でもある。「螢君とは中学から一緒にプレーしてきた」(扇原)ゆえに、互いのプレースタイルのみならず、性格も知り尽くす。現在は、「僕は影からチームを支えます」と話す山口が縁の下の力持ちタイプなら、前線を操り、得点につながるパスを配給する扇原は脚光を浴びやすい華やかなタイプだ。

 基本的にはそういった補完関係でコンビが成り立っているが、その逆のプレーも彼らはこなせる。ユース時代は10番を背負って攻撃的な位置でプレーしていた山口はパス精度も高く、攻撃的なセンスにも長ける。

 一方、ユース時代はセンターバックの経験もある扇原は、ピッチ外での端正なルックスとは対照的に、ピッチ内では闘争心をあらわにし、泥臭い守備も厭わない。状況に応じて役割を臨機応変に変えることができるのは、チームにとっても強みだ。

 また、ユース時代の最高学年次には2人共に主将を務めるなど、山口と扇原はキャプテンシーも備えている。「螢君は、言葉数は少ないけど、いつも背中で僕たちを引っ張ってくれた。頼もしい存在でした」。“山口先輩”についてそう話す扇原自身、山口からキャプテンマークを引き継いだ際は、スタッフや選手間の投票で主将に選ばれている。

 お互いについては、「タカのことは全部信頼している。僕にとってのベストパートナー」(山口)、「僕も螢君とはやり易いし、楽しい」(扇原)と認め合う。具体的なプレーに関しては、「タカが攻撃でプレーしやすいように、僕は守備を頑張ります」と山口が話せば、扇原も、「螢君はもっと攻撃参加したいはず。自分も螢君の守備の負担を減らせたら」と先輩を気遣う。扇原とのバランスや信頼関係があるからこそ、山口はスペイン戦やモロッコ戦の終盤、思い切りよく前線まで攻め上がることができたとも言える。

メンタル的なタフさが彼らを支えている

 五輪アジア最終予選での活躍に加え、今季からJリーグでもスタメンを張っているとあって、この半年間のC大阪の練習場には、彼ら2人にサインや写真を求めるファン・サポーターが連日絶え間なく訪れていた。人気面でもうなぎ昇りの彼らだが、浮つくことは決してない。前述したように、山口はクラブで3年間の苦渋の時を過ごし、扇原も試合に出られない悔しさを味わっている。

 ピッチ外では今時の若者らしくクールな振る舞いをする2人だが、メンタル的なタフさが彼らを支えてもいる。スペインに勝利した直後もわれを忘れることなく、インタビューで扇原は、すぐに次戦に目を向けた落ち着き払ったコメントを発していた。7月2日の本大会に臨む18人のメンバー発表時から、「大会でもコンビを組みたい」と口をそろえていた2人。「2年前は想像もできなかった」(扇原)“夢舞台”で、どこまで突き進むことができるのか。「いい経験で終わらせるのではなく、出るからにはメダルを狙う」(山口)。この言葉を現実のものにするべく、最後まで戦い抜いてほしい。

<了>

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著者プロフィール

1980年生まれ。兵庫県出身。漫画『キャプテン翼』の影響を受け、幼少時よりサッカーを始める。中学入学と同時にJリーグが開幕。高校時代に記者を志す。関西大学社会学部を卒業後、番組制作会社勤務などを経て、2009年シーズンよりサッカー専門新聞『EL GOLAZO』のセレッソ大阪、徳島ヴォルティス担当としてサッカーライター業をスタート。2014年シーズンよりC大阪専属として、取材・執筆活動を行なっている。

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