なぜボルトは強いのか!? 朝原さんが秘密を探る=陸上

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ボルト、オストラバで渋い表情

チェコのオストラバで行われたワールドチャレンジミーティングでは10秒04のタイムで渋い表情を見せたボルト 【Getty Images】

 ダイヤモンドリーグ第2戦の上海大会(5月19日)では男子110メートルハードルで劉翔(中国)が快走した。5年ぶりの12秒台となる12秒97、今季世界最高で優勝。男子5000メートル、女子1500メートル、同3000メートル障害でも今季世界最高記録が誕生した。
 だが、雨が降ったこともありフィールドの記録は低調だった。また男子の110メートルハードル、三段跳、やり投と女子400メートルで、昨年の世界選手権(韓国)優勝者が敗退するなど番狂わせも目立った。

 上海大会後はワールドチャレンジミーティングが4大会行われた。5月25日のチェコ・オストラバ大会では男子ハンマー投でクリスティアン・パルシュ(ハンガリー)が今季世界最高の82メートル28で優勝。昨年の世界選手権でも2位に入った、室伏広治(ミズノ)のライバルが調子を上げている。

 オストラバ大会はウサイン・ボルト(ジャマイカ)も出場。優勝したものの、10秒04のタイムには不満が残る。課題だったスタートもいまひとつで、キム・コリンズ(セントクリストファー・ネイビス)に先行を許した。ボルト自身レース後に「いつものような爆発力がなかった。どうしてなのか分からない」と渋い表情だった。

 だが、オストラバは向かい風0.8メートルで、気温も低かった。コンディションが良ければ9秒8台は出ていた。ボルト自身、ダイヤモンドリーグ第3戦の舞台であるローマに入った際は、すでに気持ちを切り換えていた。
「僕はOKだよ。オストラバもこれで終わりという記録でもない。ジャマイカからのロングトラベルの後だったし、睡眠時間も少なかった」

 昨年もローマ大会に出場して9秒91で優勝したボルト。前世界記録保持者のアサファ・パウエル(ジャマイカ)や、白人世界最速のクリストフ・ルメートル(フランス)を下した大会だ。

「去年もここで走って観衆の応援がすごかったから、戻ってくると決めたんだ」
 ボルトのテンションが上がってきた。追い風となれば9秒7台の今季世界最高も期待できそうだ。

ヤムイモを食べて強くなった?

 そのボルトだが、強さの秘密はいったいどこにあるのか。いろいろな説が唱えられてきた。まずは“ヤムイモ説”。これはボルトの父親が北京五輪後に話したことで広まった。
 ヤムイモはボルトの生まれたジャマイカ・トレローニー教区の特産品で、日本の山芋よりも太く、長いという。200メートルで五輪2連勝中のベロニカ・キャンベル=ブラウンもトレローニー教区の出身。1996年のアトランタ五輪100メートル金メダリストのドノバン・ベイリーも、この教区で生まれ、後にカナダに移住した。

 根拠はない、という反論がある一方、ヤムイモの効能を信じて論文を書いている大学教授もいるという。当のボルトは北京五輪後に来日した際、「小さい頃ヤムイモを毎日のように食べていたのは確かだけど、牛乳もよく飲んでいたからね」と話していた。

 ジャマイカ人の遺伝子を重視する説もある。住民の9割が黒人で、その大半が西アフリカ系。特に強靱(きょうじん)な肉体の持ち主が奴隷としてジャマイカに連れてこられ、その子孫だから速いのだという。

 ジャマイカの選手育成システムも背景にある。「チャンプス」という高校の全国大会が盛んで、有望選手を漏らさずにすくい上げる。以前は有望選手の大半が米国に留学したが、近年は有能なコーチも増え、ジャマイカ国内の大学やクラブで受け皿が徐々に増えてきている。
 米国では足の速い子どもがアメリカンフットボールやバスケットボールをするが、ジャマイカでは陸上競技をする。それが大きな違いだと指摘するコーチのコメントも紹介されている。

 だが、これらはすべて、ジャマイカ人が速い説明にはなるが、その中でもボルトが抜け出た存在になった理由にはならない。“ボルト独特の何か”は存在しないのか。

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