悩めるエース・並里成、覚醒なるか? スラムダンク奨学生第1期生の現在位置=bjリーグプレーオフ

河合麗子

やんちゃになりきれないファンタジスタ

ファンタジスタが悩んでいる。感性を表現する独創的なプレーが鳴りを潜めた 【(C)RYUKYU GOLDEN KINGS/bj-league】

 デビュー戦は鮮烈だった。開幕戦に先発出場した並里は、この試合チーム最多の24得点、さらに9アシストの大活躍を見せた。

 その後も1月3日の福岡戦では、同点で迎えた残り5秒、スローインからボールを手にした並里が3点シュートのブザービーターで劇的勝利を演出。3月24日西地区首位決戦となった大阪戦では、レギュラーシーズンの天王山でキャリアハイの29得点、8アシストで勝利に貢献した。
 今までのうっぷんを晴らすように彼の感性を表現する独創的なプレーは、沖縄ブースターの視線を釘付けにしていった。
 それでも並里の目標はあくまでNBA、そのこだわりは彼を苦しめ始めた。シーズン後半、自分のある弱点に気付く。「自分の感性でプレーしすぎると、“ターンオーバー”が増えるんですよ」。重たい口を何とか開くように彼は語った。

 レギュラーシーズン52試合の中で、並里の記録したターンオーバーは116回、1試合平均2回を超えるこの数字は、bjリーグでは通用したとしてもNBAのPGとしては致命的な数字だ。
 小学時代から指導する松島氏や沖縄のフォワード、ジェフ・ニュートン(米国)は、ここ2、3年の中で最も長いプレータイムをこなす彼に、相当の疲れが生じているはずだと指摘する。例えば小さな窓を通すような並里の緻密のパスは、逆をいえばほんのわずかなズレがミスを生む、とても繊細なパスとなるのだ。

 彼はそれでも「疲れ」を言い訳にはしないと言い放った。しかし、4月の得点は一桁止まり、アシストも伸びない。同じチームのPG与那嶺翼が「自分の感覚でプレーできていない、きれいなバスケをしすぎているんじゃないか」と語るように、彼のプレーは萎縮していった。
「NBAを意識すると自分のプレーが仕上がらない、でも自分の中でNBAは1つの基準になっていて……、“チームのため”に自分はどうなるべきなのか、難しいです」と並里。そこに「やんちゃなファンタジスタ」の姿はなく、プレーオフまでもう1ヶ月を切っていた。

きれいなバスケはできないプレーオフ

シーズン終了後に琉球退団が決まっている並里は、プレーオフではとにかく勝ちにこだわる 【(C)RYUKYU GOLDEN KINGS/bj-league】

 4月27日、レギュラーシーズン最終戦の富山戦前日、琉球のGM木村達郎氏はチームを食事に誘った。そこで4回目のプレーオフに挑むGMの言葉に、悩める若きエースは自分のあるべき姿に見つけた。
「プレーオフは本当に戦争、一戦必勝の戦いの場所。“きれいなバスケ”なんてお互いにできないし、“やんちゃ”でいいんだって言われて。本当に流れが悪いときどんな体勢でもシュートをねじ込む、そんな気持ちの強さが勝利につながるって……。なるほどなって思ったんです」

 2連勝で終えた富山戦、「シュートタッチなどまだ調子は戻ってないですけど、前向きでした。ミスをしても切り替えて戦う姿勢を見せることができました」と確かな手ごたえを感じていた。
 確かに個人スタッツだけを見ると調子が戻っているとは言えないが、2戦目、チームが勢いに乗れずにいた前半終了間際、ピックアンドロールでデイビット・パルマー(米国)のノーマークを作り、ブザービーターを演出した姿はまさしくファンタジスタだった。

「個人スタッツではなく、自分の戦う姿勢をみてほしい」と並里は語る。

 PGとしてチームのためにプレーしなければという優等生的な考えは並里には求められていない。中学時代チームをプレーで引っ張ったように、みんなが困っていれば俺が決めてやる、そんな負けん気の強い独創的なプレーが、相手のセオリーを狂わせ琉球の武器となるのだ。

 取材した5月6日、プレーオフ・ファーストラウンドが終了し、セミファイナルの対戦相手が西地区4位の滋賀に決まった。その直後、練習終了を体育館の入り口で待つ私の耳に「どこが来ても一緒っすよー!」。やんちゃ坊主の声が聞こえてきた。

 リーグの特例措置で入団した並里はシーズン終了後、琉球退団が決まっている。「どうしたら優勝できるかって考えるよりも、とにかく勝つ!その気持ちの方が強いです」地元での最後の勇姿はどう表現されるのか。「やんちゃなファンタジスタ」の戦闘体制が整った。

取材・文 琉球朝日放送 河合麗子

<了>


◆bjリーグ 2011−2012シーズン プレーオフ日程

【カンファレンス セミファイナル】

・5月10日(木)
 19:30 横浜(イースト2位) vs.秋田(イースト3位) 横浜市文化体育館

・5月11日(金)
 19:30 横浜(イースト2位) vs.秋田(イースト3位) 横浜市文化体育館

・5月12日(土)
 13:00 沖縄(ウエスト1位) vs.滋賀(ウエスト4位) 宜野湾市立体育館
 18:00 大阪(ウエスト2位) vs.京都(ウエスト3位) 住吉スポーツセンター
 18:30 浜松(イースト1位) vs.新潟(イースト4位) 浜松アリーナ

・5月13日(日)
 13:00 沖縄(ウエスト1位) vs.滋賀(ウエスト4位) 宜野湾市立体育館

 13:00 大阪(ウエスト2位) vs.京都(ウエスト3位) 住吉スポーツセンター
 14:30 浜松(イースト1位) vs.新潟(イースト4位) 浜松アリーナ

【ECC presents プレーオフ ファイナルズ】

・5月19日(土)
 14:10 イースタン・カンファレンス ファイナル 有明コロシアム
 18:10 ウエスタン・カンファレンス ファイナル 有明コロシアム

・5月20日(日)
 13:10 3位決定戦  有明コロシアム
 17:10 ファイナル 有明コロシアム

★bjリーグ 2011−2012シーズン プレーオフ特集ページ
http://www.bj-league.com/html/playoff/index.html

★bjリーグ公式サイト
http://www.bj-league.com/bj/Top.do

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著者プロフィール

熊本県出身、元琉球朝日放送・熊本県民テレビアナウンサー。これまでニュース番組を中心にキャスター・リポーター・ディレクターなどを務め、スポーツ・教育・経済・観光などをテーマに九州・沖縄をフィールドに取材活動を行う。2016年4月の熊本地震では益城町に住む両親が被災した。

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