南北の壁を越えた“2人のパク”=バーゼルで目標を同じくするコリアンたち

キム・ミョンウ

「僕らに南北の壁はありません」

バーゼルでは左サイドバックとして活躍するパク・チュホ(右)。「僕らに南北の壁はない」と語る 【写真:ロイター/アフロ】

 だが、果たして真実なのだろうか。このコメントだけを見れば、チームメートなのに話すことも許されないような雰囲気にも受け取られ、韓国と北朝鮮の選手ならそういったことがあってもおかしくないと勝手に想像してしまう。しかし、そうした話が事実と全く異なることを昨年9月に、韓国のサッカーポータルサイトのスポータルコリアがパク・チュホのインタビューで立証している。

 パク・チュホはパク・クァンリョンについてこう語っていた。
「むしろハングルを話せる相手がいたことは、とても良かったんです。チームでは一緒にご飯を食べるし、すべてのことを一緒にこなしていますから。年も若いし、本当の弟のようですよ」

 確かに彼が鹿島と磐田でプレーしていた時代、練習後にインタビュー取材したことがあるが、年を重ねるにつれ、日本語が堪能になっていくのに驚いた。チームに溶け込もうとする柔軟性を持っている選手という印象を受けたが、そうした姿勢はパク・クァンリョンとの付き合い方にもつながっているのだろう。

 ただ、越えてはいけないラインがあることも理解しているという。
「僕らに南北の壁はありません。でも、慎重になる部分がないと言ったらうそになります。当然のように守るべきラインがあることも知っていて、言葉を交わさなくてもそれはお互いに理解しています」

国家間の壁は存在しない

“越えてはならないライン”とは私生活でのことであり、具体的に言えば「2人で外食したことがない」や「住んでいる家に招待できない」というような内容だ。だからといって、北朝鮮のパク・クァンリョンががんじがらめの生活を送っているのかというと、そうではない。

「クァンリョンはチームメートともうまく溶け込んでいて、アウエーの試合のときはホテルの部屋でチームメートといろんな会話もするし、サッカーゲームをしたり、移動のバスの中では一緒に音楽も聞いたりします。特に英語が堪能で、分からないところがあれば、僕の通訳をしてくれるくらいです(笑)」(パク・チュホ)

 ちなみにスポータルコリアは、パク・クァンリョンに対してFCバーゼルに取材申請していたが断られていた。駄目もとでパク・クァンリョンが宿泊していたホテルのフロントから部屋に電話したいとお願いするとつながったが、本人に韓国の記者ということを伝えると「今は疲れていて話すことがきません……」と返事が返ってきたという。

 日本でのW杯予選や平壌で北朝鮮のサッカー選手を何度か取材したことがあるが、信頼のおける人物でなければ簡単には取材に応じてくれないのが実情だ。それでも、“2人のパク”の間にもう壁はない。今季、パク・チュホは左サイドバックでポジションを獲得し、コンスタントに試合に出場してリーグ優勝に貢献。一方のパク・クァンリョンは主力ではないが、4月のFCローザンヌ・スポルト戦で右CKから豪快なヘディングで初ゴールを決め、チームの信頼を勝ち取った。ゴールを祝福し、パク・チュホらチームメートが笑顔で駆け寄る姿は、ピッチの上に国家間の壁は存在しないことを象徴するシーンだった。

 来季も“2人のパク”がCLでピッチを駆け抜ける姿を見たいものだが、同じ民族である彼らが抱き合い喜ぶシーンを色眼鏡で見ず、それが当然の光景に映る日が来るのを願うばかりだ。

<了>

2/2ページ

著者プロフィール

1977年、大阪府生まれの在日コリアン3世。フリーライター。朝鮮大学校外国語学部卒。朝鮮新報社記者時代に幅広い分野のスポーツ取材をこなす。その後、ライターとして活動を開始し、主に韓国、北朝鮮のサッカー、コリアン選手らを取材。南アフリカW杯前には平壌に入り、代表チームや関係者らを取材した。2011年からゴルフ取材も開始。イ・ボミら韓国人選手と親交があり、韓国ゴルフ事情に精通している。

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント