川崎の相馬監督、電撃解任の経緯=消極的なさい配、選手との間に生じた距離感

江藤高志

指揮官自身が勇気を見せられず

今季獲得したレナト(右)の特徴も攻撃に手詰まり感を生んだ 【Getty Images】

 選手がそうして勇気を発露させようとする一方で、相馬前監督のさい配はどこか自信を失っているように見えた。その最たる例が、アウエーの浦和レッズ戦(第4節)だった。この試合、74分に阿部勇樹が、80分には槙野智章が退場しており、川崎が試合終盤の10分+アディショナルタイムの間、2人多い状況にあった。しかし、相馬前監督は85分にストライカーである小林悠を投入する際、同じくFWの小松塁をベンチに下げている。相手が2人少ない状況でありながら、FWからFWへの交代を行ったのである。そしてそもそもこの小林の投入も遅きに失した感があった。74分の阿部の退場から10分間、前指揮官は攻勢に出る決断を下せなかったのだ。

 志半ばでチームを去らねばならなかった前指揮官の非をあげつらうことをしたいわけではないのだが、このさい配が相馬前監督の心の迷いを端的に示していた。「2人少ない相手に絶対に勝つのだ」という攻めの気持ちよりも「2人少ない相手に万が一でも負けられない」という守りの気持ちが勝ってしまったのであろう。そしてそうした消極性は後半開始早々の48分に長谷川アーリアジャスールが退場した多摩川クラシコでも見られた。川崎の1人目の交代は、75分まで待たねばならなかった。

 結局のところ、選手たちに勇気を求めた指揮官は、勇気を持って攻めるべき数的優位を得た2試合で勇気を見せられなかった。

 今回の監督交代劇に際し、庄子GMは2つある理由の1つとして選手との間にできた距離感を挙げている。

「選手との距離感。去年は8連敗があったが、監督と選手でなんとかしていこうという気持ちが感じられたが、今の状況ではそういう部分があまり感じられなかった」

空回りしていた情熱

 選手たちの気持ちが離れ、相馬前監督はそれを回復させることができなかった。この溝がどのように広がっていったのかは分からないが、その萌芽は昨季の終盤にチラホラと見られていた。望んで他クラブから選手が移籍してきていた川崎から主力クラスの選手が離れ、さい配を批判する選手も存在していた。それでも辛抱して戦いを続けようとしてきた川崎の選手たちも、ここまでの7試合の内容を踏まえ、ついに限界点に達してしまったということなのだろう。

 振り返ってみると、3月22日に行われたフォーメーション練習で異変を感じる出来事があった。相馬前監督1人が指示の声を出し続ける一方、選手から声が出ることはなかった。しゃべり続けた相馬前監督は「オレ、声出さないから」と選手たちに話すことを促すが、結局選手たちからは声が出ることはなかった。そして気がつけば、相馬前監督自らがコーチングを再開するのである。相馬前監督の情熱が空回りしているように見えた練習だった。

 チームはこの直前のナビスコカップ第1節のサガン鳥栖戦を落としていた。守備を重視するスタイルを取った川崎の序盤の戦いに対し選手たちからは「うちらしくない」という言葉が頻繁に出てきており、そうした戦いについても前指揮官から選手たちの心が離れる一因となったのだろう。

「選手として、この監督を男にしたい」という感覚。指揮官と選手とはそうした暑苦しい感情で動くものである。そうした気持ちを持たれることのない指揮官は退場を余儀なくされるのである。

後任人事について、GMは「できるだけ早く」

 花散らしの雨に打たれ、花弁を落とした桜の姿は物悲しく見える。しかし、そんな桜に救いがあるとすれば、満開の花を咲き誇らせ、それを多くの人たちに愛でられたという点であろう。関東から満開の桜が消えた同じ日に現場を去った相馬前監督のサッカーは、どれだけの人に惜しまれたのだろうか。誰よりもサッカーを愛し、情熱を傾けてきた指揮官ではあったが、それが結果に結びつかない不条理がサッカーにはある。

 当然のことながら、後任人事はすでに着手されている。当面は望月達也コーチが暫定監督として指揮を執るが、後任監督について「できるだけ早く」と庄子GMは語っている。タイトルを目指すシーズンである以上、早急に新体制を決めてほしいが、その一方で拙速な人事だけは避けてほしい。川崎の強化部の力が、試されている。

<了>

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著者プロフィール

1972年、大分県中津市生まれ。工学院大学大学院中退。99年コパ・アメリカ観戦を機にサッカーライターに転身。J2大分を足がかりに2001年から川崎の取材を開始。04年より番記者に。それまでの取材経験を元に15年よりウエブマガジン「川崎フットボールアディクト」を開設し、編集長として取材活動を続けている。

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