川崎の相馬監督、電撃解任の経緯=消極的なさい配、選手との間に生じた距離感

江藤高志

開幕連勝スタートを飾ったが

川崎は公式戦7試合を消化した時点で相馬監督(右)を解任した。選手たちとの間には距離も生まれていたという 【Getty Images】

 雨と強風により、関東を彩った今年の桜は満開の花を散らし始めた。美しく繊細な花弁を失う桜は、しかし、じきに新緑の葉を茂らせ、初夏の訪れを鮮やかに演出する。栄枯盛衰の縮図が桜の木に凝縮されている。

 関東圏が自然界のサイクルに手を貸す雨と風とに見舞われた4月11日、1人の指揮官がその任を解かれた。川崎フロンターレで2年目のシーズンに臨んでいた相馬直樹前監督である。

 リーグ戦は5試合。ヤマザキナビスコカップを含めても公式戦を7試合消化したばかり。いささか唐突にも思える発表ではあったが、振り返ると解任もやむなしといえる状況があった。

 今季の川崎は、開幕戦のアルビレックス新潟戦、第2節の鹿島アントラーズ戦と連勝でシーズンをスタートさせている。この2試合は先制した得点を守り切り、1−0というスコアでしのいでいた。連勝できたことは評価できるが、その一方で攻撃に迫力はなかった。攻撃の形が作れないのである。ただ、このころはまだ楽観論が支配的だった。

「難しい試合を勝ち切ることでチームは成長できる。もっと良くなる」

 こうした声が各選手の口から聞かれていた。

持ち味であるカウンターが影をひそめる

 今季の川崎は、昨シーズンの戦いを反省するところからチーム作りを開始している。昨季は、ラインを押し上げて全体をコンパクトに維持するというコンセプトを掲げシーズンをスタートさせた。そしてそのサッカーは、2つの大きな特徴を見せる。1つは主導権を握り、相手ゴール前に何度も迫る戦いができていたという点。それによりシュート数は499本とリーグトップになるのだが、その結果としての得点はリーグ7位の52点にとどまってしまう。悲しいほどに、決定力が足りなかった。

 そしてもう1つの特徴が、ロングボールによってあっさりと失点しまう守備の脆さである。被シュート数は399本と、3番目に少ない数字であるにもかかわらず失点は53と、降格した3クラブに次ぐ多さとなってしまったのである。その結果チームは11位と低迷し、目標としていたタイトルは早い時点であきらめざるを得なかった。

 今季は攻守にわたるこの2つの問題を改善すべくチーム編成が行われ、シーズンに臨んでいた。

 攻撃面では、決定力に陰りの見えたジュニーニョ(現鹿島)との契約を更新せず、得点に絡むことを期待してブラジル人選手のレナトを獲得。また、即戦力として小松塁を迎え入れる。守備面ではブラジル人選手のジェシと森下俊が、またGKとして西部洋平が新加入した。これらの補強について庄子春男・取締役強化本部長(ゼネラルマネジャー=GM)は「100点に近い」と評価している。しかし、向上した保有選手の質と、サッカーの内容とがリンクすることはなかった。攻撃に迫力が見られなかったのだ。

 手詰まり感が出ていた理由の1つに、レナトの特徴が挙げられる。昨季まで9シーズンに渡り川崎のストライカーとして君臨していたジュニーニョは、相手ゴールに対して前を向いてボールを持ち、仕掛けていた。それに対し、レナトは中盤の深いところまで下がってパスを引き出し、そこから40〜50メートル先にあるゴールに向けてドリブルを開始する。ピッチ中央をドリブルする選手に対する相手チームの対応は容易だ。レナトのこうした特徴に加え、後述する理由によって川崎の持ち味であるカウンターは影をひそめることとなる。

攻撃を犠牲にして改善した守備

 攻撃の迫力が失われた一方で守備は改善されている。リーグ第5節終了時点ではあるが、失点数は前年の5から3に減少。ロングボールで簡単に最終ラインを破られることもなくなった。しかし、この守備面の改善は攻撃を犠牲にしたものだった。5節のFC東京との多摩川クラシコを前に相馬前監督はこんな言葉を残している。攻撃に迫力がないという傾向を受け、ボールを前に運ぶ練習を増やしていることについての質問に答えたものである。

「守備の意識を高くしているので、みんながまずは戻るようになっている。ただ、それで去年の攻撃の良さが抜けてしまっているところもある」

 これはつまり、川崎が手にした守備面での安定感が、攻撃力を削る中でもたらされたものだったことを示している。ただし、この点について相馬前監督は「リスクを負って(自分たちの形を)崩さなければ(相手は)崩れない。そこでいつも言っていますが、勇気という言葉が大事になる」と述べており、バランスを崩すことを容認する姿勢を見せていた。そしてこの概念は選手たちも共有するものだった。

 多摩川クラシコを前に複数の選手たちに攻撃面での課題について話を聞いた際、次のような言葉が出ていた。すなわち「守備に戻らなければならないところを、わざとサボって攻め残りをする回数を増やしたい」。つまりそう頻繁ではないにせよ、与えられた守備の役割を破ることで攻撃の枚数を増やし、前への推進力を増やそうとしていたのである。もちろん、これはチームを破たんに導くルール違反ではない。そうやって戻るべきポジションに選手が戻らない場合、リスクを回避するためのカバーリングについて選手たちは共通の理解を持っていたのである。

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著者プロフィール

1972年、大分県中津市生まれ。工学院大学大学院中退。99年コパ・アメリカ観戦を機にサッカーライターに転身。J2大分を足がかりに2001年から川崎の取材を開始。04年より番記者に。それまでの取材経験を元に15年よりウエブマガジン「川崎フットボールアディクト」を開設し、編集長として取材活動を続けている。

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