G大阪の低迷を生んだ最大の誤算=“ミスターガンバ”松波新監督は原点回帰で立て直しへ

下薗昌記

必然だった電撃解任

生え抜きの“ミスターガンバ”松波新監督(写真)。ACLで初勝利を手にした指揮官の立て直しは続く 【写真は共同】

 そんな師弟関係が限界を見せたのが3月25日のジュビロ磐田戦である。不振が続くラフィーニャの起用について筆者は疑問視したが、呂比須前ヘッドコーチは「僕もラフィーニャは調子が悪いと思う。ただ、監督が起用するので……」と力なさげに返答。チームのベクトルを定めるべき指導者2人の間でさえも、もはやズレが生じていた現状で、翌日の電撃解任はもはや必然だったと言える。

 現代サッカーでは最も重要と言える監督の選定で、致命的なミスを犯したガンバ大阪が、この苦境を抜け出すべく白羽の矢を立てたのが、コーチからの昇格人事となった松波正信新監督だ。2005年の現役引退後、ユースの監督や西野体制下でコーチなどを務め“帝王学”を学んできた37歳の若き指揮官は、満を持しての登板とは言えない状況にあって「ガンバに対する愛着はある。喜びと使命と、プレッシャーと今、いろんな思いが自分の中である」と生え抜きならではのチーム愛を口にした。

「俺達はミスターガンバと共に」。その就任初日には数百人近いサポーターが見守る練習場にこんな横断幕が掲げられたが、失われかけたチームの設計図を熟知する松波監督の就任は、現状で最良の選択だった。

「急に外からやってきた監督ではないので、急激に雰囲気が変わることはない」。遠藤は相変わらずクールだが、チームは「急激」に原点回帰にかじを切る。選手を固定したポジションに配置し、呂比須前ヘッドコーチがワンプレーごとに笛を吹いて止める「練習のための練習」から松波監督が選択したのは、昨年まで見慣れた密集地帯で細かいボールタッチや連動性を意識させる西野時代に似たミニゲームを主体とするメニューだった。

「選手たちに感覚的に残っているものはある。徐々に良くなるはず」。若き指揮官は失われた連動性の回復に手応えを見せたが、それは選手たちの言葉にも表れていた。「練習もハードになってようやく、チームとして動き出した感がある」と倉田秋が言えば、公式戦で、一度もガンバ大阪らしいリズムの良さを実感していない今野も「3人目、4人目の動きが出てくるので、すごくいい練習だった。ボールの運び方とか、サポートの意識とか基本的なことを思い出すという意味でも今日は良かった」と手応えを口にする。

“西野イズム”を受け継ぐような攻撃性で勝利

 新体制発足からわずか4日の準備期間で挑んだアルビレックス新潟戦は1−1のドローに終わり、就任初戦を白星で飾れなかった“松波ガンバ”だが、ビルドアップさえままならなかったセホーン体制当時とは異なり、随所に本来のパスワークが復活。「勝ち点は1だったが、勝ち点3に値するゲームだった」とクラブ史上最年少の指揮官は、厳しい船出の今後に自信を見せた。

 選手間の距離を密に保ち、ショートパスを主体に崩す昨季までのベースに原点回帰を果たしたチームにあって、未知数なのが新監督の手腕だが、“松波色”を早くも垣間見せたのが開幕から2連敗スタートで、引き分けさえ許されない3日のブニョドコル戦である。

「経験ある選手がそろっている。逆に僕の方がプレッシャーがかかっているぐらい」。就任2戦目にして、早くもACLでは背水の陣を強いられた松波監督だったが、週末に控えるリーグ戦を意識して、大胆にも二川孝広をベンチ外に。さらに、佐藤晃大と寺田紳一を今季初めて先発で用いる新布陣で「どこが相手でも、うちはガンバらしく攻める」という“西野イズム”を受け継ぐような攻撃性をチームに植え付け、PK2点を含むとはいえ、今季最多得点となる3−1でブニョドコルを退けた。

 攻守においてまだまだ本来の鋭さは戻っていないとはいえ、今季7試合目にして得た公式戦初勝利に武井択也は「ガンバのスタイルは全員が理解しているし、誰が入っても大きく変わらない」と話す。遅まきながら、再びチームのベクトルは同じ方向を向き始めた。

「青い血が流れていると自負している」と言い切る生え抜きの指揮官とともに、ガンバ大阪が立て直しに挑む。

<了>

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著者プロフィール

1971年大阪市生まれ。師と仰ぐ名将テレ・サンターナ率いるブラジルの「芸術サッカー」に魅せられ、将来はブラジルサッカーに関わりたいと、大阪外国語大学外国語学部ポルトガル・ブラジル語学科に進学。朝日新聞記者を経て、2002年にブラジルに移住し、永住権を取得。南米各国で600試合以上を取材し、日テレG+では南米サッカー解説も担当する。ガンバ大阪の復活劇に密着した『ラストピース』(角川書店)は2015年のサッカー本大賞で大賞と読者賞に選ばれた。近著は『反骨心――ガンバ大阪の育成哲学――』(三栄書房)

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