G大阪の低迷を生んだ最大の誤算=“ミスターガンバ”松波新監督は原点回帰で立て直しへ

下薗昌記

キャンプ中から見えていた低迷の“予兆”

泥沼の公式戦5連敗の中、解任されたセホーン前監督(左)と呂比須前ヘッドコーチ 【写真:アフロ】

 リーグ戦でクラブ史上初の開幕3連敗を喫し、並行して行われるAFCチャンピオンズリーグ(ACL)も2連敗。クラブ史上初となるブラジル人監督としてチームを率いたセホーン体制は、公式戦5連敗という泥沼の中でピリオドが打たれた。

 異例の早期解任にクラブが踏み切ったのは、単に結果だけの問題ではない。
「わたしは攻撃的なサッカーを志向する。だからと言って守備を疎かにはしない」。1月の新体制会見でセホーン前監督はキッパリと言い切っていたが、昨年クラブ史上最高の勝ち点70を積み上げ、リーグ最多得点を記録した大阪の雄は、今季最初の公式戦となったACLの対浦項スティーラーズ戦で0−3とホームで完敗。「まだ1試合目だけど、僕は相当な危機感を持っている」。新加入の今野泰幸がこう漏らすほど、攻守における完成度は低かった。

 セホーン体制下での5試合は、すべて先制される展開が続いていたが、深刻だったのはクラブが誇るべき表看板の攻撃力。5試合で計4得点。流れの中で相手守備陣を崩して奪ったゴールはわずか2点で、ガンバらしいパスワークは皆無だった。

 毎年のように前線に新加入選手を迎え、攻撃陣を再構築してきたチームではあるが、時間不足は決して問題ではない。チーム主将の明神智和も「連携不足の問題じゃない。むしろ、今年は始動してからの時間は今までより長かった」と明かす。ある主力選手も開幕早々の段階で「単に前の2人を走らせているだけ。このサッカーでは1年もたないし、ガンバのスタイルじゃない」とその先行きを懸念した。

 昨年は天皇杯で早期敗退したこともあり、例年にない充実したオフの期間を経て、1月中旬にチームは始動。明神の言葉にもあるように、石垣島と宮崎で長いキャンプ期間を過ごしてきたチームではあったが、すでにキャンプ中から低迷の“予兆”は見え始めていた。

最大の誤算は呂比須前ヘッドコーチの手腕

「選手の顔ぶれもさほど変わっていないし、やるサッカーは変わらない」と、指揮官が変われども、ピッチ上で全権を握る遠藤保仁は自信を垣間見せていたが、実際にセホーン監督と呂比須ヘッドコーチが志向したのは、昨年までと大きく異なるスタイルだった。

 西野元監督の指導法をすべて肯定する訳ではないが、「強気な縦パス」「密集地帯での連動性」を肝とする前体制を否定するかのような練習メニューが用いられ、ワイドでピッチを幅広く使うと言えば聞こえがいいものの、「ロングボールとサイドチェンジを狙いすぎて、選手間の距離が空きすぎている」と佐々木勇人は漏らした。

 始動直後には禁じたはずのセンターバックからの強引な縦パスも開幕直後には解禁。当初は、後方のリスク管理を徹底すべく守備陣に人を割いた配置も、キャンプ中とは対照的に「攻撃時にサイドバックはハーフラインに位置する」(藤春廣輝)というスタイルに転換され、一部選手たちは「キャンプ中にやってきたことと違う」と明らかに違和感を口にした。

 クラブにとって、最大の誤算は呂比須前ヘッドコーチの手腕だった。

「あくまでも監督はセホーン。2頭体制にはなりえない」と山本浩靖強化本部長(当時)は公言し続けていたが、セホーン前監督の実力は、母国で指導者として成功せず、Jリーグを新天地としていなければ、今ごろサンパウロ州選手権3部の弱小チームを率いていたに過ぎないロートル監督。呂比須前ヘッドコーチが事実上の監督として機能させずして、セホーン体制の成立はあり得なかった。

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著者プロフィール

1971年大阪市生まれ。師と仰ぐ名将テレ・サンターナ率いるブラジルの「芸術サッカー」に魅せられ、将来はブラジルサッカーに関わりたいと、大阪外国語大学外国語学部ポルトガル・ブラジル語学科に進学。朝日新聞記者を経て、2002年にブラジルに移住し、永住権を取得。南米各国で600試合以上を取材し、日テレG+では南米サッカー解説も担当する。ガンバ大阪の復活劇に密着した『ラストピース』(角川書店)は2015年のサッカー本大賞で大賞と読者賞に選ばれた。近著は『反骨心――ガンバ大阪の育成哲学――』(三栄書房)

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