選手人生を劇的に変えた「呼吸法」との出合い=杉山愛コラム「愛’s EYE」
あがり症で力を出し切れなかったことも
テニスはメンタル面の占める割合が大きいスポーツです。心身ともに良い状態の時は、頭で描いたイメージと体の動きが一致していきます。このフィーリングはプレーヤー冥利(みょうり)に尽きるというか、本当に心地よいものです。まさに“フロー”の状態、つまり、体も心も心地よくて、なんの力みもなく自然に体が動き、とても楽なのです。
一方、心身の状態がバラバラの時は、なにかぎくしゃくしていて、自分自身、「なんか違うな」と思いながらプレーしています。常にポジティブな精神状態で試合を進めていきたいのですが、相手もあることですから、なかなかそうもいきません。
私にとって大きかったのは、呼吸法を身につけたことです。私はもともと呼吸が浅く、スポーツ選手としては肺活量も少ない方でした。肺をあまりうまく使えない感じで、緊張すると、なおさら息がうまくできなくなります。呼吸ができないと思考も鈍り、冷静な判断ができなくなってしまいます。でも、呼吸法を覚えたことで、これが改善されたのです。
私はあがり症で、若いころは試合で自分の力が出せなくて空回りしてしまい、「もっとできたのに」と悔やむことも少なくありませんでした。そこで、どうやったらリラックスできるかというのを探っているときに、塩谷信男さんという方が書いた本に出合ったのです。
塩谷さんは医学博士で、105歳まで生きた方なのですが、その本ではご自身で編み出した呼吸法を紹介していました。本は何冊か出されていますが、“正しい呼吸と、良いイメージを頭に描くことを一致させる”という点で一貫しています。本を読んで「あ、これだ」と。まさに私が求めているものだったのです。
呼吸法を学んだといっても、コートの上で、特にパニックになっているようなときは、なかなか落ち着いて「スー、ハー」などとできるものではありません。でも、普段からやることによって、コートの上でもできるようになります。
緊張する場面でも常に“自分でいられる”
こうして、日常的に自分がどうしたらリラックスできるかというのを訓練していくと、いざコートで必要になったときに、パッとできるのです。
もちろん、いろいろな場面で緊張することもあるし、新しいことにトライするとうまくできないこともあるのですが、その中でも、この呼吸法によって、いつも「自分でいられる」と感じます。この本に出合えたのは奇跡で、それが自分の選手人生を劇的に変えたと思っています。
朝晩30分ずつ、この1時間が私にとっては大切な時間でした。今は、そこまで時間をかけることは難しくなりましたが、呼吸法は続けています。このコラムを読んでくださっているみなさんにもオススメしたいですね。また、私の場合は呼吸法でしたが、自分に合うやり方でいいと思うので、リラックスする方法、メンタル的に良い状態を作り出す方法を探してみることをおすすめします。
<了>
- 前へ
- 1
- 次へ
1/1ページ