鈴木明子が銀メダルとともにつかんだ手応え=フィギュアGPファイナル・女子シングル
「調子の波が大きい選手」からの変化
GPファイナル2位という好成績にも「もっともっと上を目指す」と意気込む鈴木 【坂本清】
いくつかのミスはしつつも、キュートな笑顔とプログラムで観客を魅了し、ひとつの演技としてまとめることはできた。ここで思い出すのは08年、五輪代表候補に名前も挙げられなかったころに語っていた、彼女のこんな言葉だ。
「今までの私は、調子の波がすごく大きい選手でした。できる時にはパーフェクトにできるのに、できないときにはジャンプ全てが跳べない。そこで心掛けてきたのは、『できないとき』に『できないもの』を減らしていく練習です。自分の上限を伸ばすとともに、毎日の練習で最低ラインも高くキープできるようにする、そんな意識を強く持ってきました。試合では、必ずしも100パーセント出せるわけではない。でもダメなときでも、自分の最低ラインさえ押さえておけば、ある程度のことはできる。良いときだけすごく良い、ではなく、常に安定した成績が出せるように。コーチとも話し合いながら決めた、ここ数年の、私のやり方です」
ノーミスかつ圧倒的な演技での銀メダル、ではなかったが、トップスケーターとしての実力は最低限見せ、ベテランらしいきちんとした戦い方をした、鈴木明子のフリーだった。
「ショートでは新しい挑戦を試みることができましたし、試合に向けて練習してきた時間はすごく充実したものでした。それはきっと、無駄にはなりません。結果は満足のいく試合ではなかったけれど、すごく手応えはつかめています。これはシーズン後半に、絶対につながる。全日本に向けても、良い起爆剤になった試合でした」
鈴木明子と高橋大輔がチームジャパンを引っ張る
男子シングルで銀メダルを獲得した高橋大輔。鈴木とともにチームジャパンの精神的支柱となっている 【坂本清】
「日本には、鈴木明子選手という僕の鏡のような選手がいます。彼女も本当にいろいろ乗り越えて、僕より一つ上なのに、かなり頑張ってる。偉いなあ。頑張ってるな! あんまり僕も、年のことを言ってられないですね(笑)。『年配頑張ろうぜ』っていつもふたりで言い合っています」
日本選手を取材していて驚くのは、男女を問わずたくさんの選手から、高橋と鈴木へ、そのスケートへの憧れと競技姿勢へのリスペクトがいつも語られること。最難度のジャンプにも果敢にトライし、アーティストとしては一級品、かつ、精神的にもタフで、大人で、さらに努力家で……。ただ年齢を重ねているだけでなく、名実ともにチームジャパンの屋台骨と言えるふたり。選手としての進退をふたりで語り合ったこともあるというが、鈴木も高橋同様、ソチ五輪まで現役を続けてくれるのではないだろうか。
「大ちゃんみたいなソチ宣言? しませんよ(笑)!」と、笑って明言を避けた鈴木だが、彼女と高橋があと3年の道のりを競技者として歩んでくれるのなら、どれだけ大きな精神的な支柱に、選手たちのすぐ近くにいるお手本になってくれるだろうか。
ソチまでのチームジャパンを、技術、芸術、精神で引っ張る2人が、そろって表彰台に立った今大会。改めて彼らは、かけがえのない存在として、日本のスケート史に残る2人だと思った。鈴木明子、高橋大輔――チームジャパンはみな彼らを見上げ、彼らを目指し、彼らに引き上げられ、あるいは彼らを越えていき、彼らもまた後輩たちの存在に奮起する。この2人がいれば、ソチ五輪までのフィギュアスケート・チームジャパンが刻む日々は、またとない素晴らしい時代になるのではないだろうか。
<了>