巻誠一郎、流転の果てに見つけたもの=古巣・千葉戦で自身の存在価値を示す

海江田哲朗

自分はもっとプレーしたい

かつて「生涯千葉」を公言していた巻は、千葉のランドマークタワーとして人気を博していた 【写真:北村大樹/アフロスポーツ】

 浦和戦、巻に訪れた決定機は一度あった。前半の終了間際、宙に浮いたボールをヘディングで押し込もうとしたが、ゴールの枠をとらえられなかった。
「あの場面、どフリーだったとあとで分かりました。背後にディフェンダーが迫っていると思っていた。ボールが弱かったから、下にたたきつけようとしたんですが……。僕自身の問題でいえば、コンディションの面ですね。もっと走りたい。ゴール前の大事なところ、一番力を使いたい場面でパワーが残っていない」
 
 チームの課題についてはこう語った。
「最初の失点の場面は、ボールを失ってから守備への切り替えで後手を踏んだ。また、イケイケになったときのリスクマネジメントや攻撃にシフトする人数のかけ方など、足りない部分がある。決定力不足だけで片付けずに、その差をしっかり埋めていかなければJ1に上がれない。我慢しながら作り上げていくことが必要だと思います」

 およそ半年前は、このまま選手として先細って行くのだろうかという焦燥感を、まだ自分は終わらないと無理やり打ち消す日々だった。
「ヴェルディに来て、自分はもっとプレーしたいんだと再認識できた。これまで積み上げてきたものをリセットして、もう一回這い上がってやろうと。僕はうまい選手ではない。そのためチームの中で浮いてしまうかもしれないけれど、逆にこれまでとは違った選手の特長を引き出せる可能性もある。そして、自分のプレーを通して、スタジアムに来てくれる人々に思いを伝えたい」

 今後トップフォームを取り戻したとき、チームの戦い方にどのような影響を与えるのか。また、さまざまな経験をクラブにどう還元するのか。「海外では結果を出せなかった。失敗と評価されても仕方がない。反面、得るものも多かった」と振り返るロシアや中国で、ただ傷つき帰ってきただけではないことを証明しなければならない。それは東京Vにおける自分の存在価値を示すことにもつながる。

 20日、東京Vはわずかに昇格の可能性を残す千葉と対戦する。巻にとっては2度目の古巣とのゲームだ。大勢の人々に現在の姿を伝えるには、またとない機会である。

<了>

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著者プロフィール

1972年、福岡県生まれ。獨協大学卒業後、フリーライターとして活動。東京ヴェルディを中心に、日本サッカーの現在を追う。主な寄稿先に『週刊サッカーダイジェスト』『サッカー批評』『Soccer KOZO』のほか、東京ローカルのサッカー情報を伝える『東京偉蹴』など。著書に、東京ヴェルディの育成組織にフォーカスしたノンフィクション『異端者たちのセンターサークル』(白夜書房)がある。

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