タレントを生かし切れないポルトガル代表=繰り返される歴史と宿命論

市之瀬敦

敗因は宿命だけではない

就任後、あっという間にチームを立て直したベント監督。勝ち切る力量はまだ持ち合わせていないのか 【Getty Images】

 しかし、予選で思い通りの結果を残せなかった理由を、ただ宿命論で片付けてしまってはサッカーの分析にならない。宿命という原因(だろうか?)のほかにも、ポルトガル代表の“敗因”はあるのだ。
 すでに述べたように、ケイロス前監督の更迭問題で揺れる中で、予選最初の2試合を戦わざるを得なかったことは、1年間を振り返ってみれば大きな悪影響を残した。何しろ、2試合で勝ち点「1」しか取れなかったのだ。

 とはいえ逆に、2009年秋にスポルティング・リスボンを解雇された後、1年間浪人をしていたパウロ・ベントが昨年9月末に監督に就任してからは、ポルトガル代表の快進撃が始まったのである。けがから癒えたC・ロナウドの復帰も見逃せない好材料だったことは確かだが、ベント監督のもとでチームに団結力が生まれたのが大きかった。何しろ、第3戦の対デンマーク戦以降、ポルトガルは予選で5連勝を果たしたのである。
 また、親善試合にすぎなかったとはいえ、昨年11月にはリスボンに“世界王者”スペインを迎え撃ち、4−0という大差で勝利を収め、W杯での屈辱を晴らしてもいる。監督がパウロ・ベントに代わり、ポルトガルがよみがえったことは明らかだった。

 9月2日、アウエーでキプロスを4−0で下したまでは完ぺきな巻き返し劇だった。そして10月、アイスランドとデンマークとの残り2試合を1勝1分けで乗り切れば、首位通過が可能だったのである。多くのサッカーファンは、ポルトガル有利を予想したのではないだろうか。

カルバーリョ不在の悪影響

 だが、最後の仕上げの直前に、代表チームに激震が走ることになった。守備の要、リカルド・カルバーリョがキプロス戦で先発を外されたことに対して不満を爆発させ、合宿から無断で離脱してしまったのである。カルバーリョを代表から追放したベント監督の厳しい判断は、大半のサポーターからも支持された。代表チームでも規律を重んじる同監督の姿勢は間違っていなかっただろう。しかし、レアル・マドリーでも守備を支える選手の不在は、チームに悪影響をもたらさないはずがなかった。

 10月7日、ホームにアイスランドを迎えた試合で5得点を挙げて勝利したのは見事。だが一方で、3失点はデンマーク戦に向けて不安をかきたてた。そして、案の定、不安は的中、ポルトガルは絶好調だったデンマーク攻撃陣にスペースをうまく突かれ、2失点を喫して敗北。最後の最後にグループ首位を譲ってしまった。アディショナルタイムのC・ロナウドのスーパーなフリーキックは慰めにもならなかったのである。

 カルバーリョ問題は別にして、予選最終段階のゲームに関しては、ベント監督の選手起用にも疑問符が付く。右サイドバックにジョアン・ペレイラを起用したが、なぜボシングワを招集しないのだろうか(と思っていたら、8日にボシングワはベント監督が代表を率いている限り、代表には戻らないと表明した)。また、センターバックにロランドを先発させているが、彼は今季FCポルトで決して良いプレーを見せているわけではない。

 攻撃面では、マンチェスター・ユナイテッドでも好調のナニにプレーさせるのはよいが、彼はC・ロナウドを意識しすぎて、自己中心的なプレーを抑え切れてはいない。あっという間にチームを立て直した手腕は見事であったが、ベント監督も最後まで勝ち切るだけの力量はまだ持ち合わせていないのかもしれない。デンマーク戦終了後、またしてもモリーニョ待望論が噴出したのも仕方ないのだろう。

ボスニア戦に向けて

 デンマーク戦後に聞かれた宿命論の根拠には、10年W杯予選のプレーオフでも同じ組み合わせになったことがあるに違いない。そう、2年前と同じ、相手がボスニア・ヘルツェゴビナに決まったのである。あの時は2戦ともポルトガルが1−0で勝利。得点差以上に、貫録の違いを見せつけることができた。

 しかし、2年が過ぎ、両チームの力の差は縮まっているのではないか。マンチェスター・シティで活躍するジェコは特に要注意である。選手個々の能力を見れば、代表MFジョアン・モウティーニョが指摘するように、「理論的にはポルトガルが有利」だが、油断は禁物。特にアウエーでの第1戦を落とすようなことになった場合は、ポルトガルは苦しくなる。悪くとも引き分けは確保しておきたい。

 プレーオフが決定するとすぐに、前代表監督にして現イラン代表監督であるカルロス・ケイロスが、「もしわたしが代表監督を更迭されていなかったら、ポルトガルはもうユーロに出ていただろう」と述べ、大方のひんしゅくを買った。なにしろ、2年前、W杯予選でポルトガル代表をプレーオフへと導いてしまった監督は、彼自身だったのだから。ケイロス監督からはこの手の失言がしばしば聞かれ、わたしはとても残念に思うのだが、その彼もポルトガルはプレーオフに勝てると予想している。宿命論の良い方のバージョンは、苦しんだ末に幸福が訪れるというものである。

 デンマークの後塵を拝したのは不本意であろうが、ポルトガルとしては何が何でもユーロ2012の出場権を獲得し、ユーロ2000からずっと続く、ユーロおよびW杯の連続出場記録をさらに伸ばしてほしいものである。

<了>

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著者プロフィール

1961年、埼玉県生まれ。上智大学外国語学部ポルトガル語学科教授。『ダイヤモンド・サッカー』によって洗礼を受けた後、留学先で出会った、美しいけれど、どこか悲しいポルトガル・サッカーの虜となる。好きなチームはベンフィカ・リスボン、リバプール、浦和レッズなど。なぜか赤いユニホームを着るクラブが多い。サッカー関連の代表著書に『ポルトガル・サッカー物語』(社会評論社)。『砂糖をまぶしたパス ポルトガル語のフットボール』。『ポルトガル語のしくみ』(同)。近著に『ポルトガル 革命のコントラスト カーネーションとサラザール』(ぎょうせい)

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