16歳の羽生結弦「どうしても世界選手権に」 日本男子トップ3に挑む=GPシリーズ・中国杯
2度の転倒に「呆然としてしまった」
本人も「呆然とした」と言う、フリーでの2度の転倒 【写真は共同】
「正直、2度転ぶなんて、ここしばらくやっていないようなミスでしたから。特にアクセルで失敗するなんて、何年ぶりだろうって……。自分でもちょっと呆然としてしまったかな」
取材エリアに出てきたころには、もう何でも聞いてくれ、という開き直った表情。最難度のジャンプを跳びながらも後半に出てしまったミスは、スタミナの問題なのか、あるいは4回転が入って安心してしまったのか、という質問にも、間髪をいれずに答えた。
「体力は確かに足りないけれど、それ以前の問題だと思います。4回転が決まって、気を抜いたわけでもなかった。ただ……4回転だけに、集中し過ぎていたのかもしれません。4回転を成功できるかどうか、それだけに僕自身が重きを置き過ぎていたかもしれない」
羽生に足りなかったものとは
「今は順位のことは考えられません。誰に勝ったか負けたかも、考える気分になれない……。とにかく、自分のやるべきことができなかった。他の誰ではなく、自分に負けたんです。だって4回転じゃなく他のジャンプでミスなんて、本当にダメじゃないですか。得意のアクセルで転んでなんていたら、4回転を跳んでも意味がないのに」
最初は淡々としていた口調も、自らの話でどんどん高ぶっていくよう。そんな彼を見ていて、ああ、誰もが一目置く超新星も、やはりまだ16歳なんだなと、少し安心さえしてしまった。
思えば私たち――日本のファンだけでなく、おそらく世界のスケート関係者も――は、羽生に大きな期待をかけ過ぎていたのだろう。それは、彼の実力を買いかぶり過ぎていた、というわけではない。国際大会で、ショートプログラム、フリーともに4回転を成功させた実力は、やはり本物だ。PCS(プログラム・コンポーネンツ・スコア)も7点台が簡単に並び、演技力や表現のスキルなどもきちんと評価されている。
しかし、才能に恵まれ、きちんと練習を積んできたとしても、若い選手がフィギュアスケートという競技でスターダムに上り詰めるには、あともうひとつ足りないものがある。それは、「試合を戦い抜く力」だ。
経験値不足は「言い訳」16歳で3トップに挑む
豊富な経験値、そして着実に身につけてきた試合勘というものは侮れない。思ったほどの好スタートを切れなかった羽生を見ていて、改めてそのことを思った。そして、大丈夫、彼だってこうやって、どんどん強くなるのだ、と。そのうち、何があっても失敗しないようなチャンピオンになって、憎らしいほどの不敵さで、多くのライバルたちの前に立ちはだかるに違いない。その力が十分あることは、今回もしっかりと見せてくれた。あとは彼の成長していく一試合一試合を、これからゆっくり楽しませてもらえばいいのだ。
そんな話を報道陣が彼にしたところ、当の羽生はキッとなって言い返した。
「経験値――そんなことを言っていたら、僕は高橋さんや小塚さん、織田さんに勝てないってことになりますよ! 経験がないから勝てなかった、は言い訳です。僕は今年、どうしても世界選手権に行きたい。そのためにどうしてもファイナルに行きたい。だから次の、ロシア杯は勝ちます。今回は『まずは表彰台』って思っていた。勝つことにそれほど執着はしていなかったけれど、次は優勝しないとファイナルに行けない。ここまで追い込まれて逆に、『勝つしかない』って気持ちになれましたから」
どうやら羽生は、私たちに「成長を楽しむ」余裕を与えるつもりはなさそうだ。
それならば、見せてもらおう。史上最強の日本男子3トップ。高橋25歳、織田24歳、小塚22歳。何年もかけて、失敗を繰り返しながらこの地位にたどりついた3人の猛者に、わずか16歳で挑もうという無謀な高校生の、怖いもの知らずの挑戦の1年を。
<了>