今大会では快挙も生まれた。震災直後は業務に忙殺されて、約２カ月もの間、練習もままならなかったＪＲ東日本東北のエース・森内寿春が１４０キロ台中盤の伸びのあるストレートとチェンジアップが冴え、三菱重工横浜を相手に大会史上２度目（５４年ぶり、日鉄二瀬・村上峻介以来）の完全試合を達成。
　森内は「被災地に少しでも勇気を与えられる１勝になったと思う。自分自身、震災直後は不通路線の代行バスの案内係や駅の清掃作業で夜勤明けの自主練習くらいしかできなかったが、それは言い訳にしたくなかった。最後に大事なのは気持ちだということをこれで証明できた」と、清々しい笑顔で胸を張った。計４試合に登板（全て先発）して、チームを初のベスト４に導いた森内は、特別賞にあたる小野賞を獲得。また、ドラフトでは北海道日本ハムから５位指名を受けた。

　そのほかにドラフト指名された選手では、前述の小石が敢闘賞にあたる久慈賞を獲得。優勝したＪＲ東日本では安定した遊撃守備が魅力の縞田拓弥（オリックス２位）、パンチ力のある川端崇義（オリックス９位）が勝利に貢献。日本生命の左腕・海田智行（オリックス４位）は３試合全てに先発して存在感を見せた。

　逆に短期決戦ゆえに結果を残せなかった東芝の安達了一（オリックス１位）、ＪＸ−ＥＮＥＯＳの嘉弥真新也（福岡ソフトバンク５位）はチームとともに早々にグラウンドから去った。また、ＪＲ九州の先発マウンドを託されたのは補強選手の一岡竜司（巨人３位）で、沖データコンピュータ教育学院に所属する専門学校からの珍しい指名選手。４回途中２失点でチームを勝利に導くことはできなかったが、大舞台での経験はプロでも生きるはずだ。

　新人選手ではＪＲ東日本の石岡が若獅子賞に。そのほかにもヤマハの長谷川雄一は勝負強い打力、新日鉄広畑の牲川（にえかわ）彰大は自慢の脚力をアピール。王子製紙の山本翔也、日本新薬の田中一八らも輝きを放った。

　今大会はロースコアの競り合いが多く、優勝候補に挙げられていたチームが早々に姿を消したのが印象的だった。前年優勝の東芝が２回戦で日本生命に惜敗したのをはじめ、前年準優勝のＪＲ九州は１回戦で名古屋市・ＪＲ東海とのＪＲ対決で敗れた。ＪＸ−ＥＮＥＯＳ、Ｈｏｎｄａといった強豪も１回戦で姿を消した。
　善戦したのはベスト４に残ったＪＲ東日本東北と住友金属鹿島。ともに震災の影響を大きく受けたチームであったが、試合終盤に逆転するなどの粘りを見せて旋風を巻き起こし、被災地に希望の光を射し込ませた。
　初の大阪開催で“地の利”があると思われた近畿勢は日本生命がベスト８まで残ったものの接戦で競り負ける結果となった。

　今年に限っての開催地が違うことで課題もあったが、都市対抗がアマチュア最高峰の大会であることは間違いなく、来年以降も数多くの野球ファンに愛されることを確信した１１日間に及ぶ熱戦に一人の取材者として感謝したい。

＜了＞